きむきむ

バケモノの子のきむきむのレビュー・感想・評価

バケモノの子(2015年製作の映画)
4.3
今までの細田作品がとても大好きだったのですが、今作は何故かタイトルを見ても予告編を見ても全く惹かれなかったんですよね。なのでわざわざ観に行く気にはならなかったんです。心の中では「細田ももう終わりだろう」とか勝手に決め付けたりして。
それでようやく観に行く機会があったので、あまり期待せずに観ましたが…

本当にすいませんでした!m(__)m
細田監督にはこの場を借りて謝りたいと思います(笑)

毎度この監督はどうして不朽で全方位的な映画を作りながらも、描くその一つ一つのテーマが大きく深く追求出来るのだろうと思っていましたが、今作もまさにそれを堂々とやってくれました。
観た後素直に思ったのが「おおかみこどもで出来なかったスケールで話が展開出来た!」でしたね。

「異種との遭遇」というコンタクトものという観点で言えばおおかみこどももそうだったんですが、おおかみこどもが"異種が人間世界に"ならば今作は"人間が異種世界に"なんですよね。
そういった意味では向こうの世界だけでは作品として昇華出来ないので、中盤あたりでまた人間世界に戻るのですが、その2つの世界の対比が凄いですね。
主人公の蓮は両親が離婚、父親は行方をくらまし、母親が1人で育てるも交通事故で他界。親類の元へは行かず独り身で生きようと渋谷で必死もがいていましたが、その描写がだんだんと遠く、冷たい空気が漂っていきます。その後バケモノの世界に行く訳ですが、初めはローアングルからの接写が多くまさに異界といった感じでした。しかしながら向こうでは名前も九太となりだんだんと逆にこっちが本当の居場所のような感覚になっていきます。そして中盤で人間世界に戻った時には既に…
"蓮"と"九太"という2つの名前があたかも2つの人格を形成している様で、本家の不思議の国のアリスよろしくその時の本人の懐疑は凄まじいものになりました。まるで蓮と九太が2つの世界で乖離していくような錯覚を覚えます。
人格を形成するのは"遺伝"なのか"環境"なのかという議論がよく為されますが、この作品はまさに環境による変化を突き付けたかなという印象です。
時間の流れも人間世界とバケモノ世界で若干違うのでよりギャップを感じます。
そして忘れてはいけないのが細田作品ではお馴染みの日常過ぎる描写です。今作も人間世界にいる時はリアルな描写がとても多く、それが蓮(九太)をより一層浮かせてる要因になっていました。それでも楓と出会いもう一度人間世界に馴染もうとする蓮。そして蓮はまた一つ成長します。


と、ここまでは異種遭遇もののジュブナイルで良かったね!と片ずけられるのですが、そうはいかないんですよ(笑)
今作の設定としてバケモノ種族は常に気持ちを隠さず放出している様子で、それが逆に清らかである様に見せ、将来的には神にも成れる存在です。逆に人間はというと、闇を心の中に閉じ込め、それが限界に達すると災害を引き起こすといった感じでしょうか。(明確な描写は無かったと思います)
その為大きな視点で見るとバケモノも人間もベクトルは逆であれ互いに、大きな力を持った存在という事になってます。
なので爆発する危険がある人間をバケモノの世界で鍛えるというのは結構なリスクである様に思えます。しかしこれは数ある伏線に過ぎません(笑)

私が感じたこの作品の大きなテーマは「強さとは何か」です。
バケモノの熊徹は格闘という意味は強いです。しかしそうなったのもずっと独りであり、バケモノの世界においてあまりにも弱過ぎた為に、強くならざるを得なかったという印象を受けました。なので九太と出会うまでは別の意味では弱かったんですよね。それから2人で様々な強さを持つ仙人?的な存在を巡る旅をし、本当の強さとは何かを模索します。

また"強さ"というテーマからまた様々な要素が枝分かれしていたのですが、私が最も強く感じたのは「支え合うことと依存することは違う」という事ですね。
CMや予告編の通り師弟関係はもちろん、親子と仲間とか様々な関係が描かれます。その中で良いところは褒め合ったり、真似し合ったり、しかし違うと思った時には自分の意見とぶつけてみる。その延長が"支え合うこと"とか"信頼"に繋がって来るのかなと感じました。
いくら偉い人だからとか、理想の人だからといってその全てを全肯定するのは無責任な妄想の押し付けに繋がってしまいます。
それが辿り着く先は"裏切られた"感覚かもしれません。
そこが今回の起承転結で言う転の部分になります。
さっきの流れからどうやって問題の部分に繋がるかはネタバレになるので言えません!

そして2つの世界は遂に"繋がる"⁉︎

そこまでスケールが大きくなって収集つくの⁉︎って観てて思いましたが、「そうか、その手があったか」と思わずニヤリとしてしまいました(笑)
そして上で言った"強さ"がだんだん色んな要素を含み、ラストではそれが支えとなりクライマックスを迎えます。まさに様々な"支え"が蓮たちを強くしたのです!

ここまで長く書いていきましたが、実際に映画を観る時は中盤まで何も考えず観た方が良いと思います。勘の良い人だとタネが分かってしまうかもしれないので(笑)
また、細田作品ならではの「え?これってまさか…どっちなの⁉︎」みたいな教えてくれない要素もあります(笑)

この世界は私たちが思っているよりも、少しばかり優しいのかもしれません。そんな事を思わせてくれる映画でもありました。
この夏も素晴らしい映画をありがとうございました。
きむきむ

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