きむきむ

屍者の帝国のきむきむのレビュー・感想・評価

屍者の帝国(2015年製作の映画)
3.5
「言語が思考を規定する」
のであれば、何よりもまず言葉にしなければいけないですよね。
個人的にこの物語は敗北の物語だと思っています。原作で円城塔が敗北し、やはり牧原亮太郎監督も敗北してしまったと。
観終わって素直な感情は「残念」という気持ちと「頑張った」という気持ちです。

原作がめちゃくちゃ好きで、今回は本当に楽しみにしていました。そして予告編の時点から改変には気付いていたので、初見の人が楽しむ事が出来るのであれば原作と全く違った物語でも良いと思っていました。
しかしながら、これは初見の人にも理解が困難な作品に仕上がってしまったという印象が拭えません。
原作は円城塔にしか書けない物語であり、円城塔しか書いてはいけない物語なのかもしれません。ならば第三者である今回のスタッフは第三者らしく、ワトソンとフライデーの友情をメインにもっと推し進めても良かったように思えます。恐らく原作ファンにも配慮したのでしょう、大きく改変しながらも大枠という意味では原作通りになっているのですが、それが原作ファンには逆に頂けない印象になってしまったのでは無いでしょうか。
つまり、双方の立場を過敏に意識してしまった為に、中途半端な作りに見えてしまいました。

と不満を持った一方で、これだけ難解な原作をよく2時間にまとめたと感心する気持ちもあるのです。
この作品は小説的な仕掛けが多く、映像化するのは至難の業だと思っていました。ならば今回の改変は一つの作品としてエンターテインメント性に富んだ出来とも言えるのでは無いでしょうか。
スタッフ達も相当苦労したと思います。作画、演出、音楽等アニメーション映画としては本当にトップクラスだと思います。なので原作ファンとしては屍者の帝国を映像作品として観ることが出来たのが素直に嬉しいという気持ちもあります。
そういった観点から、劇場版屍者の帝国スタッフには本当に頑張ったと伝えたいです。

と、ここまで映画の感想を述べたところで、このプロジェクトの本質を考えたいですよね。
このプロジェクトは原作ありきのプロジェクトです。ならば目的は当然原作・映像化作品含めたコンテンツの盛り上がりにあると思います。そう考えると、このプロジェクトのおかげで伊藤計劃シリーズを買った人はとても多いと思いますし、ここまで期待外れという評価が多いということは、みんなが期待していたという事です。
なので是非原作を読んで欲しいと思います。(劇場版の比にならない程難解ですが)
屍者の帝国の原作は私が思っているよりも評価されていません。確かに虐殺器官やハーモニーと比べて読み辛いし、伊藤計劃らしさはありません。しかし、だからこそ円城塔が書いた屍者の帝国が面白いと思っています。

そういった訳で、この劇場版から伊藤計劃シリーズを知った人は原作にも手を出してみて、もっとみんなと盛り上がって欲しいと思います。
そうする事で、彼は生き続ける事が出来るはずです。


それが「物語」というものですから。
きむきむ

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