きむきむ

ハーモニーのきむきむのレビュー・感想・評価

ハーモニー(2015年製作の映画)
3.9
原作ファンです。まずはこの『ハーモニー』が無事上映に至ったことが本当に嬉しい限りです。『虐殺器官』の件は残念でしたが、『ハーモニー』が11月に観られて良かったです。

そして原作を読まずにこの作品を観て「は?なにこれ。みんなどういう評価してんの?」と気になってこのレビューに辿りついた人は一番下を読んでください。

点数については個人的には4点を越えてます。しかしそれは原作を読んでいて、カットされた部分も補完出来ていての点数です。その為、じゃあこの映画のみで完結しているかと聞かれれば、やはり原作も読んでくれという答えを返さずにはいられません。なのでこの点数にしました。

そして今回は基本的に、内容というよりは映像化の出来について書きたいと思います。
まずはアバンから前半について。凄まじい引き込み方です。始まって即効で拍手したくなりました。あくまで映像を先行させていて簡単に世界に入り込む事が出来ます。そして回想部分も上手く盛り込む事によってあのテキスト量の原作を上手く説明、それだけで無く神秘的に魅せることに成功しています。
その表現力たるや、小説では表現出来ない情景描写は圧巻で、思わずぼーっと観てしまいました。

次に中盤ですが、序盤が凄すぎただけにやや同じ演出が目立ってしまったり、繰り上げ上映の影響かやややり残しの感じさせるシーンがあったりしました。もっと突き詰めたかったのかぁと感じましたが、それでもそれを言い訳にせず見事に処理していたと思います。
そして今作は人工網膜が結構活躍する為、一人称視点の映像が多くあります。こっちは本当によく出来ていますね。視界を遮るAR情報の数々を、本当によく見ないと全部見えないけどしっかりと細分まで作り込んでありました。

最後は終盤についてですが、セリフ量が段々と少なくなり、テンポが早くなっていく印象がありますがこれは正解だと思います。観ていて、いよいよ終わりに向かっているんだなと結末を知っていてもワクワクしました。
そしてエピローグ!これこれ!これは凄いなぁと関心してしまいました。あの小説を読んでこんなシーンを作れるとは!ハレルヤ!

まとめですが、原作ファンの中にはセリフカットし過ぎ!って人も多いと思います。しかし個人的はそれじゃあ映画じゃないと思うんですよね。(実際会話が長くて冗長的に感じたシーンもありました)
あくまでも映像作品なので映像の描写に大きく時間を割くのは自然だと思うんです。
最近のアニメーションではやる事が多過ぎてただチェックリストを埋めていくだけの作品が増えてきているように感じます。
アニメーションも芸術の1つなので、露骨なくらい演出や魅せ方を凝っても良いと思いますし、それが映像作品だと思います。一見なんの意味も無さそうなシーンに見えて、制作側はしっかりと意図を持ってやっています。
こういうの最近無かったけど良いよねと思うだけでもこういう風潮は復活すると思います。


〜既に観た方へ〜(ネタバレという訳ではありません)
このハーモニーという物語はとても壮大ですが、主人公トァンの物語という意味ではSFとか未来とかそんなの関係無く普遍で、一見陳腐なモノです。
トァンの視点で物語が進む為見逃しがちですが、一度広い視点から3人を見て、もう一度トァンの視点で見てみて下さい。これは登場人物の重要度とか作品の重要度とかではありません。明らかに、そして原作よりも露骨に、キャラクターの描写にというよりは関心に差があります。
そこがこの物語のもう一つの面白いところでもあります。
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