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秘密 THE TOP SECRETのsanbonのレビュー・感想・評価

秘密 THE TOP SECRET(2016年製作の映画)
2.6
「第九」の"ザコっぷり"を露呈させる"逆PR動画"を観させられた気分になる、なんだか宙ぶらりん感が拭えない作品だった。

まず気になったのが、色んな要素が結局なにも活かされず物語が進行していく点だ。

大前提として、この物語は「MRI捜査」という死者の脳内データを可視化する事の出来る特殊な捜査方法を軸に、その有用性と危険性を描いていく必要があると思うのだが、そこがなんともまあ物語の展開上あまり意味を成していない様に見えてしまう。

僕はこの設定に対して、"死者の脳内をスキャンする"というところよりも、"可視化した映像は物的証拠にならない"という点に面白味を感じた。

本来なら、被害者の目を通して加害者の顔が丸写しになるのだから、それだけで一発逮捕でいいものを、この作品は"スキャンした映像は被害者のイメージや幻覚すら投影されてしまう可能性がある為十分な信憑性を得られない"としているのだ。

という事は、一直線でゴール出来る道のりを、わざわざ迂回ルートを見付けて辿り着かなくてはならない事となり、そのルートを探っていく過程にこそこの作品の醍醐味が詰まっていると期待した為だ。

だが、この映画は画期的な筈のこの技術を、単なる"グロ映像投影機"としてしか描けておらず、それどころかまだ公式にも運用を認可されてもいない段階にもかかわらず犯人に散々利用され、挙句の果てに終始掌の上で転がされ続けて終わってしまう。

なので、この映画は犯人の猟奇性と狡猾さばかりが目立つ構成となっており、観ていてもただただモヤモヤするし、暗い気持ちになってしまうばかりだった。

ただ、"猟奇犯に翻弄され狂わされていく刑事"の構造は、映画的にはそう珍しいものでもないし、個人的にも嫌いなジャンルではない。

しかしだ、今作はそういった作品とは"根本的な趣旨"が違うのではないだろうか。

話が堂々巡りになってしまうが、何故ならこの作品はMRI捜査という架空の捜査方法を描き、その有用性と危険性を提示しなければいけないわけであり、SF要素を含んだ刑事もののサスペンスという、"要素"ばかりがてんこ盛りになった作品において、また別の要素を上乗せしてきてどうする。

今作で本来主体となるべきは、圧倒的に警察側の"活躍"でありMRI捜査を"活かした展開"でなければならない筈なのだ。

それが、蓋を開けてみれば犯人とは分かっているのにそれを証明出来ず、だんだんと憔悴していく姿が延々と続き、しまいにはその技術を手玉にまで取られて、人の命が次々と脅かされてしまうという、なにをやりたいのか全く分からない鬱展開のみが描き出される。

また、この作品は「薪」という天才的カリスマとエリート新人の「青山」による"バディもの"であるため、その化学反応が事件解決への糸口になる展開を描くのが普通だと思うのだが、ずっと敵に翻弄されてばかりなものだから、主役二人ともが常時後手に回るばかりで、魅力的に映る場面が驚く程描かれず、常に陰鬱な表情で追い詰められていく描写ばかりで、この作品で一体なにを表現して見せたいのか本当に理解に苦しんだ。

感覚としては連続ドラマのラストエピソードを観ているかのような苦境っぷりだったが、結局はそこからの大どんでん返しや大逆転などの"あってしかるべき"展開が演出される事もなく、結末に至るまでの間中ずっと敵側にアドバンテージを取られたままだったし、第九という組織の無能なザコっぷりを描き切った終わり方はある意味での斬新さはあったかもしれない。

ビシッと着こなすスーツも何故か全員ワンポイントずつなにかが変だし、強迫観念にでもとらわれてるのかと思うほど皆常になにかにイラつき怯えるばかりだし、今作におけるキャラクターメイクは内外共に好きになれなかった。

また、死者の脳内映像なのに何故かその脳ミソの持ち主本人も映像内に写り込んでいたり、犬と人間の視覚は全く違うと言っておきながら全く同じように映像が映し出されたりと、映像に対するこだわりも感じられない。

まあ、一言で言ってしまえば全体的に"雑"であり、これでは主題歌のシーアも頑張って脱いだ女優さんも報われない。

残念ながら、今作は良い部分があまり見出せず、低評価になるべくしてなったと言わざるを得なかった。
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