ジェイコブ

仁義なき戦いのジェイコブのレビュー・感想・評価

仁義なき戦い(1973年製作の映画)
4.7
舞台は敗戦直後の混乱による無秩序な広島呉。駐屯するアメリカ兵に蹂躙される住民達を見て見ぬ振りをする軍と警察への憤りに駆られる広能と男達。ある日、少数勢力の山守組の組員が刀を持った暴漢に襲われる。組員に代わり、暴漢を成敗した広能は収監された刑務所で、土居組若頭の若杉の脱獄の手伝いをした事で、義兄弟の契を交わす。若杉の計らいによって、保釈された広能は、山守に囲われ山守組の組員となる。広能は義理堅さと侠気から、他の組のヤクザからも一目置かれる存在となっていく。そんな中、呉の大物ヤクザ大久保と市議会議員の策略により、山守組と土居組との間で抗争が巻き起こる。山守と広能は、若杉の助けを借りて、抗争を収めようとするのだが……。
深作欣二監督の、言わずとしれたヤクザ映画の金字塔。主人公の広能のモデルは、実在したヤクザ美能幸三であり、本作も彼の獄中手記を元に作られている。ヤクザ者でありながら、金や権力になびかず、義理人情で動く任侠の男広能や、広能とは対照的に、利益や自己保身のみを考える二枚舌の男山守など、一人ひとりのキャラクターが明確に立っている。そのため、90分に満たない作品ながらも利害関係、相関図などはゴッドファーザーにも引けを取らない濃密さで描かれている点は巨匠の凄さを感じざるを得ない。
本作の特筆すべき点として、深作欣二が例え映画の中であっても、人一人の生と死に向き合い、本作を作っていた事だろう。それはメインの登場人物の死だけでなく、他の映画であればスルーされるであろう端役の死に対しても、「元土居組々員死亡」などのテロップを入れていることからも伺える。そこには監督自身が感じた、戦時中に多用された「名誉の戦死」への違和感、「生き恥よりも名誉の死」をという謳い文句で死んでいったその他大勢の人々への思いがあったのだろう。
本作はヤクザ・任侠映画に限らず、様々な作品へ影響を与えており、世界中にも多くのファンがいる。その一人がタランティーノ監督であり、彼は自身の作品を語る際に日本語の「仁義」を好んで使うのは有名な話。
本作を見たことがない人でも、テーマソングだけは必ず耳にしたことがあるだろう。その耳に残るテーマソングは、本作の中で指を切ったり、人が死ぬ瞬間などに過剰と思える程に使われている。そこには生々しい暴力描写を美化したり規制したりするのではなく、観客に有りありと見せつけて音楽と共に記憶に刻み込む意図があったのではないかと感じさせる。暴力というものは国家、個人関係なく全ての人にとって常に身近な存在であるという事を、映画、音楽として印象づける事で、忘れ去らせないようにするために。そこには戦争という国家間の暴力を体験した深作欣二の、強い思いがあったに違いない。
ヴァイオレンス映画を通して、「暴力」の凄惨さや非道を描く、まさに後世に伝えるべき作品の一つと言えるだろう。