ジェイコブ

みなに幸あれのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

看護師を目指し東京で暮らす孫は、過去に一緒に暮らしていた田舎の祖父母のもとを訪れる。都会の喧騒から離れ、山々に囲まれた場所で久々の家族の時間を過ごしていたが、祖父母の様子がおかしいことに気がつく。孫が二人の認知症を疑う中、ふと幼馴染の男と再会する。幼馴染の様子もどこかおかしいことに違和感を覚える中、孫は祖父母の家にいる、ある存在に気づいてしまう……。
第一回KADOKAWAホラー映画大賞作品。主演を務めるのは、実写版「幽遊白書」にも出演した人気女優の古川琴音。
古くは神々に捧げるための生贄や、江戸時代の部落制度、現代資本主義社会における搾取される人々など、文明の進化に関わらず、いつの時代にも一定の「不幸」は存在している。人の幸せは誰かの不幸の上に成り立っているをテーマに、「幸せ」の意味を考えさせられる作品となっている。
登場人物達の名前が出てこないことも本作の特徴として挙げられる。そこにはあえて名前を意識させないことで、誰しもが当事者意識を持って本作を鑑賞し、世界をより良くしたいという監督の思いを感じる。
ラストで不条理を受け入れ、変わってしまった孫。ラストの笑顔は、医者の婚約者と明るい未来を築けることに安堵した故のものだろう。だが孫の心にもわずかながらでも、その世の中をおかしいと考える気持ちはあるのではと感じた。それは、横断歩道を渡るお年寄りを助けることこそなかったが、振り返ってみたし、自分を軽蔑するように見つめる女性の存在に気がついていた。もし完全になくなっていればこれらの存在に見向きもしなかっただろう。それは本作の中に出てきた虐められていた少年が、他の少年をいじめることで幸せを手に入れたものの、そんな世界に嫌気がさしていたことにも通じている。そういった意味では、この孫のわずかに残った気持ちこそ、パンドラの箱における「希望」なのかもしれない。
本作はヨルゴス・ランティモスの「聖なる鹿殺し」を彷彿とさせる不条理ホラーにも似て、求めていた胸糞を与えてくれた反面、「クリーピー」のような主人公が違和感に少しずつ気がついていく日常系ホラーを期待していたため、老婆の出産や指舐め、老夫婦の異常行動などの描写に少し興醒めすることもしばしばあった。一つ一つはホラー映画として見ると印象的になるが、あまり多すぎても全体構成としてのバランスが悪くなり、胸焼けしてしまう(監督がやりたい事を詰め込んだのは分かるが)
ただ、近年のジャパニーズホラーの衰退を考えれば、久々に出てきた見ごたえある作品。