るる

彼は秘密の女ともだちのるるのネタバレレビュー・内容・結末

彼は秘密の女ともだち(2014年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

なるほどねえ。よくできてる。

デジャブがうまく使われてて良かった。終盤の強引な展開を除けば、上手い脚本だ。撮り方も上手い。

クライマックス、クレールが旦那に言われて「そう、今はダヴィッドよ」と、昔恋した女・ローラではなく、ダヴィッドことヴィルジニア自身と向き合うシーンが良かった。

しかし、作中の台詞にもあったが、レズビアンは可視化しにくいのかなあ。
女が好きだけど子供が欲しくて男と寝られる女もいるもんな…別れてから自覚して女と付き合う場合もあるよな…

でも、旦那がかわいそうだったな…悪いひとじゃなかったから余計にな…むしろ旦那としては非の打ち所がない優しい旦那だったよね…

これで旦那がもっと冷たい奴だったらスッキリ解決だったんだけど、でも、そうじゃないからこそ、クレールがヴィルジニアに抱いた気持ちは確かに抗いがたい恋なのだ、という説得力も感じてしまったから、余計にモヤモヤする〜…気の毒…

性別関係なく、恋愛感情、不倫ってのは難しいってことよね…

ラスト、「新しい誕生」を果たしたヴィルジニアは、記憶喪失になったわけじゃないよね?とか、肉体改造はしたのかなとか、クレールは旦那とは別れたのかなとか、ぼかされてるのが、ちょっとだけ引っかかったかな…

ヴィルジニアにとっては、美しい女として在りたい欲望を隠さずに、女として生きられることこそ大事で、性転換手術をするかどうかなんて別問題、女装が好きなだけで肉体改造までは必要ないのかもしれない、些細なことだってわかってるけど…

旦那のことが気になってさあ…誰もがハッピーになってほしかったから。ちょっとスッキリしなかった。フランス映画の不倫は様式美だから目くじら立てる気はないけども〜

しかし、お買い物シーンなど、最初は「女友達」ができて浮かれていた様子が伝わってきて、ワクワクできたし、ローラへの押し殺した想いがヴィルジニアへの想いにすり変わり、白昼夢など交えながら、徐々に双方の真意が明らかになっていく描写が見事だった。

そもそも男性であるダヴィッドと結婚したからローラのことを諦めたのに、当のダヴィッドに女装癖があったなんて、しかもローラはそれを受け入れていただなんてと、女の私にもひょっとするとチャンスはあったのかもしれないと、ショックを受け嫉妬する姿など、困惑が伝わってきて良かった。

性描写なども見やすくて、同性愛やトランスジェンダーをスキャンダラスに描かない、まっすぐなフランス映画だったのも好印象。

映り込む十字架など、キリスト教保守派の禁忌を連想させたものの、同性愛も異性装も、ことさらにタブー視しない、描かれ方が良かった。

ヴィルジニアに会うときだけは身だしなみを整えるようになるクレールの深層心理にあるのは、女装する男や同性に対する見栄や対抗心よりも、ただ恋する乙女の習性なのだと思ってみると、女という生き物はなんとも複雑で面白い。

【追記】
モヤモヤの理由がわかった!

ヴィルジニアはトランスジェンダーというより異性装者、トランスヴェスタイトなんだろうな?

モヤっとしたのは潜在的レズビアン(バイ)である主人公が、異性装者を「ペニスのある女」として都合良く捉えてる可能性について、言及がなかったこと。そのへんについての説明がなかったから、ラストにスッキリしなかったんだと思う。

だって女同士のカップルは擬似セックスしかできないし、子供だって産めない。そりゃペニスのある女がいたらバイの女にとっては最高の恋愛相手になりうるよ。(生殖や挿入だけがセックスじゃないというのはさておき)

美しい女で在りたいと願う異性装者がペニスのある己の肉体についてどう考えているのか言及がなかったから、
「あなたは女じゃない」という言葉にショックを受けた姿は、てっきり、ペニスのある身体を恥じてるのだと思ったのだけれど、違うのね。
ペニスはあるけど、異性装をすることで女になれるということを彼は誇りに思ってる。じゃなきゃベッドに誘わない。
その誇りを最悪の形で傷付けられたから彼はショックだったんだ。

彼が異性装愛好家ではないことは理解して見てたけど、トランスセクシャルとトランスヴェスタイトを混同してたから勘違いした。

トランスヴェスタイトの彼は、女装することで理想の自分に近づくことができる。ハナからペニスを除去することまでは望んでない。じゃなきゃローラとも結婚できなかったろう。

主人公は、そんな彼を、彼の心も、彼の身体もまとめて愛することを決意した、ってことなんだろうけど、だからセックスもできた、妊娠もできた、ってことなんだろうけど。

どうやって克服したのか、と思うわけですよ。
いや、ローラは元々、男性とセックスすることは可能だったわけだが。
とにかく、あの拒絶のシーンのイメージが鮮烈に残ってたから、目覚めたヴィルジニアと言葉を交わすことなく結末を迎えてしまったのが、消化できなくて…

モヤっとしました。それ以外は良かった。

これとは別に、レズビアンが異性装者に恋してしまって男の身体を受け入れられなくて悩む、という映画があるなら、見てみたいなと思った。

そして改めて、日本版予告編はどうかと思う。確かに、ヴィルジニアと出会って変わっていく主人公の姿はゲイベストフレンドに癒しを求める女性と重なるが、この映画の本質はそこではないし、異性装者をゲイベストフレンド=「女にとって都合の良い存在」と結びつけるのはどうかと思う。主人公は別に平凡な主婦じゃないし。ターゲット層が伺えてちょっとゲンナリ。

原題英訳の THE NEW GIRLFRIEND がまさに言い得て妙なので、邦題とあわせて、日本の狭量な価値観が垣間見えたような…

【追記】
トランスセクシャルじゃなくトランスヴェスタイトだと断定する見方も違うなと反省。差別的内容なので時間ができたら修正します。すみません。
るる

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