ベルサイユ製麺

プリズン・エクスペリメントのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.6
映画好きな人は変によく知っている、スタンフォード大学の擬似刑務所実験の映画化です。
学生バイトをコイントスだけで刑務官と囚人に分ける、という一見雑な選別方が意外と正鵠を得てて怖い。実際に檻の中と外のどちらに立っているかの差は、コインの側面の数ミリほどの隔たりしか無いのではないかと思わされます。どっちに倒れたか、というだけの違いで。
立場の違いを利用し、どこまでも思い上がり囚人達をオモチャの様に弄ぶ刑務官側の心理はまだ想像しやすいとして、徐々に反抗心を削がれ、挙句全く架空の罪状まで受け入れる様になる囚人役側の、底の抜けた下降スパイラル的心理には背筋が凍ります。更に最悪なのは、本来当然フラットであるべき観察者達が、要所要所で囚人役の心を折り、実験が極端な(=望ましい)展開になる様に導いている点です。つまり、司法が正しく行われていない状態、までを含んでの実験として、我々は俯瞰できる構造になっている訳です。なんて腹立たしい面白さなのだ…。
実験が予定の半分も消化せずに切り上げられた事は劇中(恐らく関係諸事情で)、人間の良心に依る美談の様に描写されていますが、実際は単に続行不可能な局面を迎えたからなのではないかな?と邪推します。邪推大好き。
実験初期段階から徹底された個人性の剥奪は、実は刑務官側にも有効に作用している様に見え、アレやコレやあって、今や我々の日常の中に染み込んでいると感じます。何しろ私は昨日食べた物も覚えてないのですから!(←全く別の話)

因みにこの映画、ビジュアルが物凄く好みです!ソリッドな映像で、ショットも的確、人物配置や照明の加減も良い!(語彙が無いので上手い描写とかは出来ません。)ちょっとソダーバーグを思い浮かべましたね。モンドな劇伴も好きだったなー。冒頭2分のタイピング→版下→輪転機の流れはフェチの方はヨダレでカーペットを駄目にするくらいの心地よさです。フィルモを見るともう一本撮ってるみたいなんですけど、誰も観てないみたい…。観たい!!!