ベルサイユ製麺

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.5
こんなに重苦しい映画久々に見ました。冒頭の最前線のシーン。顔面を炸裂させて横たわる兵士。血と体液の中で鈍く光る写真入りのペンダント。この物語がどんなトーンで語られるのかを強烈に印象付けます。

幼い甥の戦死を引き金に南軍を脱走したニュートンは、大義を語る軍に搾取され続ける農民、物のように扱われる黒人達と共に蜂起し、南軍との闘争を繰り広げるの事になるのですが、それは南北戦争の終戦後も延々と続く人種差別、貧富格差を巡る闘いの始まりでもあったのです。
南北戦争を題材にした作品はたまに有りますが、その後の流れまで追ってみせる物は記憶にありません。
北軍勝利も問題の解決では無く、民主党ジョンソンが大統領に就任してから黒人達の受難は更に深刻化、複雑化していきます。法を捻じ曲げての黒人達の私物化、狂信的差別主義者による私刑の横行など、局面が捉え難く悪化するごとにニュートンの態度は硬化し、その形相には苦悩が深く刻まれていくのです。
今作では、当時のニュートン・ナイトの闘争の時代とは別のもう一つの時間軸が平行して語られます。80年余り後の時代、ニュートンの子孫が、彼の出自を問題により自由な結婚が許されず法廷で闘争するというシーンが、元々のニュートン・ナイトの物語の合間合間にほぼ脈絡の無いタイミングでインサートされるのですが、これが非常に効果的で、“昔々”存在した酷い出来事という認識が“ちょっと前”にもまだあった、という補助線を引かれ、その先の現代・未来まで射程に収めてくるのです。仲間を吊るされ立ち尽くすニュートンの悲劇は、現在でも何処かで起こっていて、ニュートンの闘いは今も続き、これからも続いていくのでしょう。

物語の語り口はどこまでも苦く、カタルシスを得られる場面は殆ど有りません。やむを得ないと思います。スカッと消化なんてしてはいけない事柄だからです。現実の歴史の理不尽さに対して溜飲を下げる為のメタフィクション活劇はタランティーノなどに期待するとして、例えば怒りを溜め込むための装置として、この様な“楽しくない”映画の存在意義は大いにあると思います。観る価値は確実に有ります。

《蛇足》
⚫︎マシュー・マコノヒーと沼の組み合わせの映画をやたら観るような気がします。アメリカでは、彼のようなのは“沼顔”なのでしょうか⁇
⚫︎犬派の方は閲覧注意です。ザクザクで、コンガリです…。