茶一郎

スター・ウォーズ/最後のジェダイの茶一郎のレビュー・感想・評価

3.7
 今作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は『スター・ウォーズ』カノンの映画作品の内、初めて「ある一線」を飛び越えてしまった作品だと思いました。
 その「ある一線」とは観客の「俺たち」を物語の中に組み込んでいることです。そして、その「俺たち」は、ルーク・スカイウォーカーの伝説に憧れ、ミレニアム・ファルコンの光速ジャンプの軌跡を見ながら「僕も『スター・ウォーズ』のキャラクターみたいに自分の物語の主人公になれるかなァ」と夢憧れる劇中のあの少年に他なりません。
 魅力的なキャラクター、手に汗握るアクションシーンとサプライズの後、最後の最後で私は今作の作り手側のあざとさに襲われ、劇場で吐き気を催しました。きっとこの吐き気の正体は、『シンドラーのリスト』におけるシンドラーのお墓参りシーンの違和感と同じような、『スター・ウォーズ』自身による『スター・ウォーズ』の伝説化だと感じます。本家『スター・ウォーズ』が、同人誌のように本家を伝説としてリスペクトを捧げる構図、その直接的な描写を劇中に入れ込んだ今作『最後のジェダイ』は、『ローグ・ワン』の懐古主義とはまた別の特別な一線を越えた作品だと思いました。

 21世紀FOXの映画・TV部門を買収して帝国完成も間近というディズニーによる『スター・ウォーズ』二作目。過去作のプロットをそのまま踏襲し『スター・ウォーズ』カノンにリスペクトを捧げた一方で、大風呂敷を広げに広げ終わった前作『フォースの覚醒』の次作となる『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、前作の謎を少しずつ解明しながら、新三部作のテーマを明確にした一本でした。
 「名も無き者が、いかにして自分の物語を生きるか」出自に恵まれなかった者、社会にとっては「ノイズ」とも言われてしまうような者、特別な血筋に生まれていない者、彼らがいかにして人生を生き、ヒーローとなるか、このテーマが『ローグ・ワン』と今作を繋ぎ、スカイウォーカー家という特別な一家に生まれた者だけで終始していた過去の『スター・ウォーズ』とはまた別の新しい現代の『スター・ウォーズ』を誕生させます。
 そのテーマを踏まえると今作の監督にライアン・ジョンソンが抜擢されたのは必然とも言えます。監督の過去作『ブラザーズ・ブルーム』では兄に与えられた物語しか生きていない弟が主人公のコメディ、何より監督の前作にして出世作『ルーパー』は自分に与えられた物語(運命)を自らの行動で切り開く主人公の物語でした。ライアン・ジョンソン監督作に一貫したテーマが、この『最後のジェダイ』と共鳴するのです。

 「最初から作戦の内容を教えていたら、もっとすんなり言ったよね」というテキトーすぎる反乱軍の幹部たち。前作から引き続きセキュリティゆるゆるのファーストオーダー。危機的状況なのに内輪揉めをし始める同盟軍。確かにストーリー運びには首をひねる所が何点かありますが、個人的には「赤」をアクセントとした美しすぎる画作りによって全てオールオッケー。
 そんなストーリーの粗よりもこの『最後のジェダイ』は、私にとって『スター・ウォーズ』の同人誌化という事態を受け止めなければいけない作品でした。私には「名も無き者」が星空を見上げ『スター・ウォーズ』の登場人物に憧れる様子と、『新たなる希望』のルーク・スカイウォーカーが故郷タトゥイーンにて二重太陽を見つめ、ここでは無いどこかを求めるそれを同一視することはできません。
茶一郎

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