岡田拓朗

国際市場で逢いましょうの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

国際市場で逢いましょう(2014年製作の映画)
3.8
家族と好きな人のために人生を生き抜いた一人の男性の物語。

幼い頃から主人公ドクスは常に自分ではない誰かに目が向いていた。
おそらく境遇が境遇なだけに、自分がやりたいこと、理想を追えるような状態でもなく、彼はずっと使命感に追われ生きてきたからであり、尊敬する父親の背中を常に見てきて、離れてしまう最後の言葉が、考えられないほどにドクスにとって重くのしかかったからでもあろう。

物語は現在と過去が行き来するような展開。
父親との約束が軸になっており、現在においてドクスがなぜ店を手放すことをあそこまで躊躇ったか、が物語を追うごとにわかっていき、その約束を果たし続け、最後に店を手放す結論に至ることが、約束を果たし切ったことであることに昇華されていき、まさに感動のラストであった。

朝鮮戦争、ドイツの鉱山での仕事、ベトナム戦争と家族のために、常に死と隣り合わせで行動し続けるその姿はもはや父親同然であった。
弟の学費のために、妹の結婚式のために、家族の生活のために、自らが厳しい境遇に立ち続けた。

店を売っていればもっと簡単に生計を立てられたかもしれないのに、ドクスはなぜそれをしなかったのか。
それは生涯父親が帰って来るのを待ち続けたからであろう。
そう、それも約束であったからドクスはずっと信じて父親を待ち続け、また父親の言う約束を果たし続けた。

ドクスにとって父親は自分の指針であり、鏡のような存在だったように見えた。
彼は常に父親だったらこうするだろう、を軸に全ての行動を決定していたに違いない。

そうなってくると、ここまで誰かのために生きられるのは、やはり父親の影響で、なんやかんや学校で受ける教育よりも親がどうであるか、どんなことを教えるか、で子がどうなるか決まることも同時に伝えられていて、改めて親のあり方も考えさせられる。

ドクスの心や行いはまさに太平洋戦争中の自らが犠牲になってでも、誰かを守り切るために奮闘し続けていた軍人と通ずるものがあるのではなかろうか。(自分はそれが頭によぎりました)

戦争や劣悪な環境下で働くことそのものがなければ、その心はもっとよい方向に向いていたに違いない。
当時の日本も然りだが、その当時の全てを否定するのはやはり違うなーと感じる。

現代はわりと満たされていることが多いだけに、自身の幸せのレベル感が当時よりも高く、幼い頃から守るものがあるわけではないので、家族ができないとなかなかこういう考えに至るのは難しいように思える。

たまに当時と今のどちらが生きていて喜びや楽しさを感じられたり、分かち合えたりできるんだろうなーと考えることがあるが、そもそもベースが違うだけに、いつも結論は出ない。

ただ、当時は今ではそんな感情が湧かないような些細なことでも、喜びや楽しさを感じ、分かち合えていたことが今作を見るとよくわかる。
そんな些細なことにでも幸せを感じられる当時に生きることも今とは違う素敵な生活があったと思うと、ただただ悲観的に見るのも少し違う気がしてきた。

こんなことを考えていても正直どこにも着地しないけど、色んなことに気づかせてくれたので、今作を鑑賞してよかったです。

伏線の回収や物語の流れがとても韓国映画っぽい感じで、ベタな展開で進みますが、とてもリアルに感じるので、自分は感動しました。
やっぱり韓国映画好みの作品が多い。
岡田拓朗

岡田拓朗