砂場

殺人捜査の砂場のレビュー・感想・評価

殺人捜査(1970年製作の映画)
4.3
カテゴリー分けできない奇妙な空気感の映画
一応サスペンスものだけど、、、
まずはあらすじから

ーーーあらすじーーー
■SMプレイに興じる男と女、「あたしを殺して、、、」ベッドで男は女を殺す。女の爪に自分のネクタイの糸をひっかけてあえて証拠を残す。
犯行現場の女のアパートから出るときに若者と門のところですれ違う
■警察では男は公安部長に昇進するということでお祝いの席が設けられた。被害女性はアグスタ、早速警察の現場検証。部長は高圧的な態度で部下を怒鳴り散らす
■公安部長としての就任演説、、左翼、革命家、ホモは皆犯罪者だ、弾圧せよ!
■犯行現場から部長の指紋がでる、女の爪の糸はブルーのネクタイであり、部長がしていたネクタイと同じ色だ。部下は部長が犯人ではないかと怪しむ
■公安ではターゲットの電話の盗聴や、犯人のプロファイリングをコンピューターで行っていた。
■街中には極左のポスターが、、毛沢東、ゲバラ、トロツキー、極左活動家と取り締まる公安の攻防
■アグスタ殺しの容疑者として元夫が圧力尋問を受ける。部長は彼は無実だと解放する。
■部長は見ず知らずの建設作業員に金を渡し青のネクタイを買い占めるように言う、その後警察にいけと。
言われる通り警察にきた作業員だが、部長を目の前にするとビビッて人違いでしたという。
■公安本部の爆破事件が起きた、若者を多数逮捕する、拷問、主犯を聞き出す。主犯はパーチェという若者で、部長を見るなりあんたが殺しの犯人だという。あのとき門ですれ違った若者だ
俺はお前が犯人だと知っているぞ!部長は涙目で否定するが、自首することを決意、部長は反抗を自供するメモを書き警視総監に渡す

<💢以下ネタバレあり💢>
■部長は刑務所入りを覚悟し荷物をまとめていると警察の連中がきた、警視総監は奇妙なことに部長の犯行を認めない。部長は証拠を提示して自分の犯行だと伝えるが取り合ってくれない
警察内部から殺人犯を出すわけにはいかないのだ
上司たちと部長は室内で対峙している、部長はブラインドを下ろす、軽く頭を下げる
■”彼がどんな印象を押し付けようと 彼は法の召使だ 法に隷属している 人間的な審判には責任を負わない” フランツ・カフカ
ーーーあらすじおわりーーー


🎥🎥🎥

⭐️怪作だ😅
このようなジャンルのよくわからない映画をみると、
既存のなんかに当てはめてとりあえず納得したくなる心情がある
冒頭では、ああなんとなく清順『殺しの烙印』っぽい風変わりなコメディだなと思って半笑いで見ていたが徐々にいやそうでもないな、、シリアスにやばい、、なんだこれは、、、と沼にはまり込んだ。

⭐️一応は警察内部の犯罪というサスペンスを軸に、ブラックユーモア、サイケ、不条理劇、ファシズム批判などを盛り込んだ作品とはいえるが
既成のジャンルに当てはめることを拒むような異様な迫力がある。

⭐️公安部長役ジャン・マリア・ベロンテ、冷酷な顔つき、マウント言動、パワハラ言動、自己陶酔型の大演説、アップダウンの激しい感情。心底胸糞悪い人物像だ。
この部長の心境は理解しがたい、あえて証拠を残してスリルを楽しんでいるのか、警察の能力をあざ笑ってたのか、モリコーネの音楽はいつもとは違い、ぴよ~んとかぽよ~んとかなんとも笑える

⭐️サスペンス展開に絡めた公安当局による活動家への弾圧がジワリと怖い。カフカの引用にある通り、彼らは法の奴隷として機械のように冷酷に行動する

⭐️イタリアの戦後の混乱はベルトルッチの『1900年』を観たり、チェーザレ・パヴェーゼ『月と篝火』を読むとよくわかるが、ファシストと共産主義者が内戦状態だったし、テロも横行した。
同じ敗戦国でも日本が敗戦後は”崩壊からの復興”が政治的イシューだったのに対し、イタリアは”内戦による分断”が激しかった。
ムッソリーニのファシスト党をパルチザンが打ち破ったので一応自力で勝ち取った戦後であり、共産党もとても力を持っていた。皮肉なことにその戦後が内戦を引き起こしてしまった。
本作にはその暗い時代が強く影を落としている、あとリメイク版『サスペリア』も極左勢力の破壊活動が重要な
背景だったなあ

とにかく奇妙な一品であった
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