カテリーナ

64 ロクヨン 前編のカテリーナのレビュー・感想・評価

64 ロクヨン 前編(2016年製作の映画)
4.3
7日間しかなかった昭和64年

その記憶は私にもある
昭和天皇の最期
新しい年号に一喜一憂していて
不幸にも時を同じに起きていた誘拐事件が報道されずに 実在していたら
誰にも知られずにその7日間に取り残されていた人々がいたとしたら……
幼い少女の誘拐事件
冷たい暗闇に呑まれる
その家族は勿論の事
その事件によってその後の人生を狂わさ
れる まるで昭和という時代そのものの
執念が人々の足を掬うような暗澹とした
プロローグ

冒頭で誘拐事件という暗いテーマの不穏な空気に包まれ それに加えて
ぴんと張り詰めた緊張感が結末まで続き 呼吸困難に陥る
少ない観客の張り詰めた空気も
肌で感じる

元刑事の広報官三上(佐藤浩市)が警察内部の人事の問題や
新聞記者たち(瑛太)との確執など
なんとか正義を貫こうとするが記者たちは
事件の匿名報道問題に不満が爆発し
一触即発の状態に加え上層部からは
我が身可愛さに三上を抑圧し
無能呼ばわり
県警内での立場は今や最悪の状態にもかかわらず迫られる答え
三上の秘密によって人の悲しみや痛みのわかる故に下す決意が胸を打つ

原作を読破した後の鑑賞なので
結末を知った上での演者たちがその役柄になりきりその事件によって翻弄される様を
どの様に演じるかに絞って鑑賞
結果ほぼ、全員が破綻なく演じている
決定的だったのは三上役の佐藤浩市 彼は今までに数々の映画やドラマに出演し、様々な役柄を演じてきてるが
今作の三上は見事である
本人が身を削るように演じたと言ってるだけあって渾身の演技だ
原作の面白さは半端なく幾つもの山があるがその中のひとつ
雨宮宅を訪れた三上が感極まって
詫びながら涙を流す場面である
頭の中で幾つかの過去がフラッシュバックする自分と雨宮を重ねたせいで
嗚咽を堪えきれなくなるのだ
こんな暖かみのある男泣きを他に誰ができるだろうか
三上の片腕となる広報の係長諏訪を演じた
綾野剛 新聞記者の秋川の瑛太も良い
事件の鍵を握る引きこもりの窪田正孝
骨太な刑事松岡を演じる三浦友和など
これ以上ない豪華な俳優をこれでもかと
揃えて演技合戦を繰り広げる

私の敬愛する相米慎二監督
その門下生が何人も出演している
そのひとりひとりが相米監督によって
引き出され 実力も身につける
それは目に見えて明らかである
そしてそれは一時の事でなく次の作品でも
そして今でもその輝きは続いている
相米印の俳優たちは期待を裏切らない

今作の主要キャストの何人かが相米監督の作品を経験している
そのメンバーを見て微笑んだのは
言うまでもない

追記
こーじさんが気付いてくださって
後編と前編のレビューの順番を、間違えました
編集するにも皆様のレビューを削除されるのは嫌なので
後編のレビューはそのままのこしてあります。
申し訳ありませんでした
こーじさんありがとうございました
カテリーナ

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