てっちゃん

キカのてっちゃんのレビュー・感想・評価

キカ(1993年製作の映画)
3.8
"私が、生きる肌"ぶりのペドロ・アルモドバル先生の作品であり、新作が楽しみだなと思っていたのもあり、気になっていたこちらを鑑賞しました。

ここまで、好き嫌いはっきりと分かれる作品はなかなか珍しいのでは?ってくらい分かれそうなやつ。

私はというと、衣装(ゴルチェ大先生!)やらインテリアやら色彩センスやらのキメにキメているあたりについては完璧。
登場人物たちの魅力、主にぶっとび具合、大好物。
物語やその構成は、あんま好きじゃないけど、その不思議な感覚が段々と癖になってきてしまうから、最終的にはけっこう好きになっていたりもした。
倫理観、最悪(こういうのは考えないで観るのがよろしい系なんでしょうが、それが私にはできませんでした)。
って感じなので、評価が非常に難しい。
なので、どっちつかずな感じになろうかと思います。

まずは視覚的にとんでもなく魅力的なのは言うまでもないでしょう。
はっ!とする色彩センスと、個性の塊というか奇抜すぎるけどもアート作品としての魅力を十二分に備えつつ、キャラクターの魅力を限界にまで引き上げてくれるゴルチェ大先生の大仕事がみられるだけで、もう本作を観る価値があると言ってもいいのではないでしょうか。

本当に衣装が素晴らしくて、途中途中で挟まれる劇中シーンやレポーター?のアンドレアの衣装は特に素晴らしく、あのスーツ欲しい!って思ったし、最初はなんじゃこれ?感だったのに、観ていくと段々と癖になって、これしかないでしょ!ってなる。

あと特筆すべきは登場人物たちのぶっとび具合でしょう。
主人公のキカは、破天荒に明るくて、浮世離れしているし、感情の振れ幅がえらいことなっていて、これだけでお腹一杯なんだけど、そこにアンドレアだったり、ファナ(この方のお顔がとにかく印象に残る感じで、その表情のひとつひとつや細かい行動までが完璧)や、男性陣も強烈に下衆野郎。

ようは、まともな人物なんて出てこないし、みんなが強すぎるうえに、画力が前述したとおりの強さだから、休む間もなく、画面から飛び出してきては畳み掛けてくる感じ。

そんな強烈な前半なんだけど、とある出来事(ここを私はブラックジョークなりコメディとして観ることができなくて、ひたすらに嫌悪感を感じつつも、それでも笑ってしまうという、体験したことのない笑いをしてしまったのです。警察官が来ても、腰を動かし続け、仕舞いにはレイプ犯がスペルマを放出し、とある方へ顔面ヒットするという不快感マックスのシーンで笑ってしまったのです。でもその笑いは決して気持ちが良いものではありませんでした)が起きてからは、物語はシリアス・サスペンス方向に向かうという、ジャンルごちゃまぜ感がすごい。

それでも言えるのは、確かに倫理観は最悪なんだけど、不思議と魅力を感じるのは確かなこと。
それはアルモドバル先生の”変態力”が、その倫理観すらもぶっ壊すくらいに強烈だからなんでしょう。
映画なんだから自分の好きなものを詰め込んでいる感があるからなんでしょう。

大好きな作品とは、とても言えないし、1回観れば満足な作品だなと感じたのだけど、強烈なインパクトを与えてくれたのには間違いない、そんな作品でした。
てっちゃん

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