るる

リリーのすべてのるるのネタバレレビュー・内容・結末

リリーのすべて(2015年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ほのかな倒錯と陶酔、なんて美しい、奇妙な映画…

女装した夫とのベッドシーンなど、倒錯的な画なんだけど、主題はそこではなく、でもやっぱり、狂おしいほどのフェチズムに溢れてる映画だなと思った。

エディ・レッドメインとベン・ウィショーのロマンスはずるいだろ…エディの美しさは脅威的。

ゲイのヘンリクが、身体まで女性になったリリーにショックを受ける姿が可笑しかった。

芸術家夫婦の成功の様子、名声・評価が逆転する様子もまた、倒錯的。

妻から夫への芸術家としての嫉妬、プライドの揺らぎが、女としての嫉妬、プライドの揺らぎにすり替わっていくあたり、なんとも…

気が強いというより、カッコいい妻ゲルダが魅力的だった。
が、内気なアイナーとの関係において主導権を握る様子は、時に残酷で…
リリーが女性の身体を手に入れ、自立していくにつれて、段階的に夫を失っていく姿は気の毒でもあり…
夫婦としての愛を失ってもゲルダがリリーを心配し続ける姿は、絆と呼ぶべきか、
それとも最初から女友達のような関係のふたりだったのかもしれないと思わせた。

ほのめかされる、画家とモデルの支配関係、なんとも官能的。

男性をモデルにしながら、女性として絵に描くって、それだけで、なんて…
裸婦画を画廊のオーナーに見せて「(君の夫に)似てるな」と言われるシーン、
なんとも奇妙で、倒錯的としか言いようがなくて…

夫の一番美しい姿、夫が女性になった姿を見出し、感じ取り、絵にする妻、
妻が描く絵の中に、自分の理想の姿を見つけていく夫…

絵を描くように化粧する姿が素敵だった。夫に女装させて、女友達ができたかのように遊ぶ、妻の無邪気さはちょっぴりイタイ。

鏡の前で裸になる、アイナー、いや、リリー。
娼館で娼婦を覗きながら自分の身体を触り、男性器があることに絶望する姿、
手術によって膣を形成できると告げられて喜びをあらわにする姿、
妊婦から、子供を産める身体になれればいいわねと言われて、曖昧に微笑むしかない姿、
普通の女になりたいと夢を語る姿、
母親に抱かれてリリーと呼ばれることを夢見る姿…
どれもこれも印象的だった。

トランスジェンダーが異常、精神病と、性的倒錯と言われていた時代。つらい。
やり過ごせるほどの違和感ではなく、明確に自覚してしまったからこその苦悩でもあるんだろうなと思った。
自分自身を殺されかける悲しさ。
二重人格のように生きることでアイナーもリリーも生かす。
ウラの「彼みたいに混乱(confuse)した男性」という言い方に優しさを感じた…
男たちに絡まれて、殴られる悲しさ。辛さ。
アイナーもリリーも、どちらも生かす道を選んだ、選べた、奇跡。希望。
妻であるゲルダを捨てることになっても、間違いを正したい…

医学の進歩で、性転換ができるようになったとはいえ、今もまだ、リスクは大きい手術。
でも、先駆者がいた、自ら実験台になるような危険な手術だけど、それでも、という切実な決断をしたひとびとによって、いまがある重み、
理解はちょっとずつ、ちょっとずつ進んできてる、まだまだ、これから、険しい道かもしれない、でも、これからがあるという希望…
性転換手術に限った話じゃないと思う。

ハンスとリリーが、リリーをモデルにした裸婦画に囲まれて会話するシーンも、倒錯的だったよな…。
ゲルダとハンスとの奇妙な三角関係っぷりも。

「あなたが私を美しくした」

リリーを創ったのはゲルダという描かれ方が、なんともシニカルで…

異性愛者同士のメロドラマを消費するのと同じように、トランスジェンダー者の苦悩に満ちた「美しすぎる」ロマンスを消費する、ほのかな背徳と罪悪感に襲われつつ。

その倒錯的な撮り方はどうなんだと思いつつ。
倒錯的と感じることこそがリリーのようなひとたちを傷つけることではないかと突き付けられつつ。

その甘美さに酔いしれました。
るる

るる