シズヲ

センチュリアンのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

センチュリアン(1972年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

現代のセンチュリアン、“公務員”としての警察官。展開はドキュメンタリー調というかダイジェスト的で、夜勤警官の日常をただ黙々と描き続ける。映画に出てくるような巨悪は存在せず、時折起こる銃撃戦や追跡劇もひどく泥臭い。事件が起きてはまた次の事件、いずれも慣習的に片付けられていく。劇的なドラマが無いまま話は進んでいくし、登場人物のエピソードに関しても容赦なく時間が飛ぶので、見方によってはかなり素っ気ない。ステイシー・キーチやジョージ・C・スコットなど、役者陣も華やかなスターというよりは70年代的な尖った面々ばかり。クインシー・ジョーンズの音楽も絶妙な緊張感と哀愁で味わい深い。

本作の警察官は“報われない労働者”であり、リチャード・フライシャーのドライな演出も相俟って兎に角やるせなさに溢れている。貧困黒人や家庭内暴力、同性愛者に売春婦など、取り締まる相手を通じて垣間見える社会の底の縮図。市民からは敬遠され、割に合わない命懸けの職務に身を起き、ちっぽけな犯罪を“慣れる”ように感慨もなく処理していくだけの日々。ロイの家庭環境の変化やキルビンスキーの退職などがそそくさと描かれるのが妙に生々しい。そんな人生の“早さ”と共に磨り減ったキルビンスキーの虚しさ。夕焼けを背負ってロイに電話する場面は、彼の現状が深く語られていないにも関わらずどうしようもない“孤独”が滲み出ていて哀しい。

先輩警官の顛末を知ってしまい、家庭と仕事の折り合いにも失敗したロイはやがて精神の均衡を崩す。依然知り合った黒人看護師と交際し、ようやく自分の人生を省みれる段階にまで立ち直っても、警察官という“割に合わない命懸けの職務”は容赦なく彼を突き落とす。何のためにここまで頑張ってきたのか。人生を淡々と磨耗させた果ての末路は、打ち拉がれるほど痛切で残酷。しかしDVDの裏面、ラストまでのネタバレが容赦なく書かれてて別の意味で容赦ない。
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