こたつむり

ファイティング・ダディ 怒りの除雪車のこたつむりのレビュー・感想・評価

3.8
♪ 夢から覚めた 血塗れの天使を
  胸に抱いても I can not stop

とてもシンプルで複雑。
そして、哀しくて笑える。
更にはメッセージ性など皆無なのに自然と“何か”を考えてしまう…そんな矛盾に満ちた作品でした。

構造は本当に単純です。
殺された息子の仇を取ろうとするお父さんの物語。ただ、それだけです。しかも、主人公に葛藤はありません。「死は死をもって償う」と言わんばかりにザックリいきます。

しかも、変なところにこだわります。
例えば死体の処理方法。金網を巻いて海に投げ込めば魚が食べてくれる…と計算しているのか、何も考えていないのか。そして、それは本気なのか、ギャグなのか。“ガチ”で悩むレベルです。

また、敵方となるマフィアのボスについても。
外見から思わずエドワード・ノートンを連想してしまうからか、インテリっぽい風貌の向こうに見え隠れする狂気。なかなか闇が深い感じで、これも“ガチ”です。

それがあからさまなのが家具ですね。
壁一面に飾られた“手の模型”。
椅子の背面には“デスマスク”。
それでいて彼は殺人に躊躇しない菜食主義者。これもどこまでが真剣なのか、ギャグなのか。徹底的に悩む演出でした。

ただ、全体を俯瞰してみれば。
「全ては計算尽くなんだろうな」と捉えても良さそうです。特に伏線の張り方は絶妙。一見して意味のなさそうなシュールな場面も香辛料として機能していました。

でも、ひたすらにノルウェーを持ち上げるセリフは…欧州の人なら伝わるギャグなのか、或いは社会的なメッセージを帯びたものなのか。ちょっと判別がつきませんでした。奥が深いです。

まあ、そんなわけで。
ひたすらに広がる銀世界で道を作り続けた男の復讐譚。それは自然に対抗してきた人間の矜持であり、明日が見えない冬を突き抜ける怒りの焔。その矛盾を如何に解き解すかは…観客次第です。あと、好事家ならばラッセル車に萌えるのもアリですね。
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