かなり悪いオヤジ

ラ・ラ・ランドのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.0
この映画、昔のミュージカルにオマージュを捧げたシーンがたくさんあるらしく、宝探しが魅力の一つになっているようだ。『パリのアメリカ人』『ロシュホールの恋人たち』『雨に唄えば』 『ウェストサイド物語』・・・ミュージカルはあまり詳しくない私でもそれとわかる演出を随所に発見できる。おそらくアカデミー作品賞をとった『アーティスト』風演出で柳の下のドジョウを狙ったのだろうが、この映画の魅力はそれだけに止まらない。

グイネス・パルトロウ、ジェフ・ブリッジス、アン・ハサウェイ にヒュー・ジャックマン。(たとえ歌詞はわからなくとも)素人が聴いても唄うんめぇなぁと感じる俳優さんはたくさんいるが、逆の場合もまたしかり。唄の下手さは折りこみずみ役者の別の側面を引き出すことが目的だと、かつてスパイダーマン・シリーズでミュージカル風演出を取り入れたサム・ライミが語っていた。

タイアップと思われるモノホン歌手ジョン・レジェンドを除けば、ほぼライアン・ゴスリングとエマ・ストーンの2人芝居。お世辞にもうまいとはいえない唄はともかく、“キレキレ”というよりも”切れ切れ”にしてごまかしたダンスもはっきいいっていただけない。印象に残るオリジナルテーマソングも、楽しいときと悲しいときにかかるほぼ2曲だけという超シンプルな演出だけに、2人の下手うま度が余計目立ってしまうのだ。

TV子役という共通項をもちながら、ゴスリングとエマの役へのアプローチの仕方は全く異なるといってもいいだろう。俳優として一作一作ちがった表情をみせるゴスリングの方は徹底した役作り。監督チャゼルの分身とも思われるジャズをこよなく愛する偏屈男セブを演じているのだが、バンドを組んでアルバムを出したこともあるゴスリング、猛練習で習得したピアノ演奏をおそらく吹き替えなしで披露している。

片やエマ・ストーン。なかなか芽がでない大根役者リアがTVのオーディションを受けるシーンで、はたしてそれがどういう役柄なのかわからないほど劇中のリアと渾然一体、大根役者を演じているというよりそのマンマなのである。ふりかえってみると、どの映画に出ても一本調子なエマ・ストーンはほとんど役作りをしていないという意味ではほぼ確信犯的で、ジュリア・ロバーツやアン・ハサウェイのような演技過剰女優が大衆に嫌われることを、本能的に察知(意図的に回避)しているとみて間違いないだろう。

貧乏時代に知り合った売れない大根役者とジャズ大好きな偏屈ピアノマン。社会的成功とは引き換えに2人の距離は徐々に広がっていきやがて・・・。♪あの日あの時あの場所で♪○○○していれば。アナザーストーリーを2人で眺めるシークエンスは秀逸だ。ラストの切り方なども、アカデミー会員にしてみればさらっとしすぎて味気ないのだろうが、今時の恋の終わらせ方はあのぐらいで調度いいのかもしれない。後ろ髪なんてひかれている暇はないの、私には私の人生があるんだから。オールドスタイルにこだわるゴスリングとそれに別れを告げたエマ。2人の若手スターの前にはそれぞれ別の未来が広がっている。