のら

ワイルド・スピード ICE BREAKののらのレビュー・感想・評価

3.5
人気シリーズの8作目。

前作スカイミッションの撮影中に主演のひとりであるポール・ウォーカーを失い、さらに監督だったジェームズ・ワンも離脱するという逆風の中から制作が始まった本作。監督にはストレイト・アウタ・コンプトンの F・ゲイリー・グレイを迎えての再スタートと言った感じの作りになっている。

本作の最大の特徴は、チームの父親とも言える主人公ドミニクが、シャーリーズ・セロン演じるサイバーテロリストであるサイファ側に付いてしまう点にある。そして寝返ったドミニクに変わって前作で敵だったジェイソン・ステイサム演じるデッカードが仲間に加わる。

特に今作はデッカードがストーリー的にも、そして映画的にも大きな鍵を握るキャラクターになっていて、前作スカイミッションでは元軍人という設定から格闘スタイルがマーシャル・アーツだったのが、筋骨隆々のドウェイン・ジョンソン演じるホブスとタッグを組ませる為に、デッカードの格闘スタイルがパルクール色の強いものになっており、プロレス仕込みのパワープレーを主体とするホブスとの棲み分けを明確にしている。

また本作はシリーズの中で最もコメディ色が強い(存在自体がコメディであるTOKYO DRIFTを除く)作品に仕上がっており、ホブスが娘のサッカーチームの監督をするシーンや、タイリース・ギブソン演じるローマンとスコット・イーストウッド演じるリトル・ノーバディのディスり合いも面白い。そして何よりも本作のクライマックスと言えるジェイソン・ステイサムによるベビーシッターは最高に面白い。

映像的にもゾンビカー軍団や、氷上のカーチェイスに、腕力で魚雷の向きを変えるなど、ドキモを抜かされるシーンの連続で2時間30分があっという間に過ぎてしまう。非常に満足度の高い映画であるのは事実だが、設定上の穴が多すぎるきらいがある。

例えばドミニクが寝返る切っ掛けになる出来事が、ユーロミッションより前に起きていなければ行けないのだが、だとするとスカイミッションに出ている理由が謎だったり。サイファのハッキング攻撃が万能すぎるなどシリーズを通して見ていると疑問に感じる設定が多い。

とはいえその辺りの雑さは本作のチャームポイントでもあるので気にならないのだが、問題は自動車をカッコよく撮れていない点と、全体的に自動車特にアメ車に対する愛情のようなものが本作からは感じられない点にある。

特に本作はドミニクが乗る車が基本的にサイファからの支給品のような形で、ドミニクが自分でこれに乗りたいと選択するシーンが無いので、主人公たちが自動車を使って暴れる理由みたいなものが弱くなり、シリーズの魅力を削いでしまっている。

本作は間違いなくシリーズで最も笑える作品に仕上がっているし、エンターテイメントとして満足度の高い仕上がりであることは確かだが、ポール・ウォーカーの急死とミシェル・ロドリゲスの復帰による軌道修正の色合いの強い作品になっており、そこの部分の強引さが気になる作りになっている。
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