赤

500ページの夢の束の赤のレビュー・感想・評価

500ページの夢の束(2017年製作の映画)
4.0
2018年劇場鑑賞78本目

"Please Stand By"
自閉症を抱える主人公がウェンディが、自身の大好きな「スター・トレック」の脚本コンテストへ応募するべく執筆をする。しかし、紆余曲折があり郵送で間に合わず、ハリウッドのパラマウント・ピクチャーズへ脚本を届けに行くべく旅に出る。

障害やトラウマを抱えた主人公が何らかの作品を通して受けた影響のもと、自らが創作に情熱を注いでいくことで得られる成長や社会との交わりを描くというテーマ。
今年公開の大傑作「ブリグズビー・ベア」と共通の部分があると感じた。
どんな困難があろうとも絶対に届けたい、主人公の真っ直ぐさと決して諦めない芯の強さにやはり心打たれた。

愛犬ピートと共にハリウッドを目指す謂わばロードムービーであるが、この作品は主人公ウェンディに対して徹底的に厳しい。
道中何人かの人々と出会うが、自閉症を持つウェンディを冷たく扱うのはもちろんのこと、騙す、奪うなど基本的に風当たりは強い、というよりもキツイ。中には良い人もいるが。
こういった作品とは逆に、摩擦係数ゼロのやさしい世界で主人公が周囲の優しさを受けながら成長していくという作品も多くある。それはそれでもちろん良さがあるし、個人的に好きな部類である。
だが、今作に関してはそれをやってしまっては絶対に面白くなかっただろう。
残念ながら現実とはここまで冷たいものなのかもしれない、困難に打ちのめされてもそれでも一大決心したウェンディは諦めずにハリウッドへ向かう。この姿にやはり映画を観ている私達にもたらすカタルシスが確かにあった。気付けば全力でウェンディを応援して見ていた。

この作品、音楽がとても良かった。
ロードムービーならではの爽やかな曲が多く、サントラが見ている途中で既に欲しくなっていた。
また撮影の仕方も、ウェンディにとっては街を歩くこと自体が既に冒険であるというような、世界を大きく見せるように撮られていて上手いなと感じた。

そして、今作と深く関連のある「スター・トレック」。
私自身はあまり知識がなかったので、鑑賞前に多少の用語等を確認して観てみた。エンタープライズ号、クリンゴン語などが何となく分かる程度である。
それを踏まえて見てみたが、正直「スター・トレック」を知らなくとも全く問題なく鑑賞はできる。
ただし、知っていれば尚面白いと感じるシーンもいくつかあった。警察官とクリンゴン語で会話をするシーン、知らずとも感動したシーンだったが、これをもし知っていた状態で見たらより感動したことだろう。"カプラ"も後に意味を調べて、とても温かい気持ちになった。

結末に関しては見ている段階で予想はついた。旅を通じて、創作を通じて得るものとしてあの結末しかないだろう、
ラストシーンで、これまで出来なかったことが旅を通じて出来るようになっている。しっかりと成長を描けていて、軽すぎず重すぎず程良い温度感で最後に映していたのも良かった。

ダコタ・ファニングの演技は言うまでもなく素晴らしく、機微な感情が演技から読み取ることができた。
ファニング姉妹の演技力、ここ最近更に磨きがかかっていて留まることを知らない。

ドライすぎずウェットすぎず、物語に没入できるように上手く温度感がチューニングがされているように感じた。
そのため、難しいことを考えることなく純粋に勇気を貰える作品であった。
見終わった後には、原題の"Please Stand By"は非常に秀逸なタイトルだと思える。

夏の大作映画ラッシュも一段落した所で、鑑賞後にスッと前向きな気持ちで劇場を後にすることができる今作、おすすめです。
スター・トレックがとても見てみたくなりました。
赤