茶一郎

ヴァレリアン 千の惑星の救世主の茶一郎のレビュー・感想・評価

3.8
 「宇宙で、ブッ飛べ。」とか「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が小津映画に見える」だとか、数々のパワーセンテンツが宣伝文に並ぶのも納得のブッ飛び映画。
 『レオン』や『グラン・ブルー』で広く映画ファンを獲得しているリュック・ベッソン監督が原点回帰した本作『ヴァレリアン』は、荒唐無稽上等なB級街道を突っ走る作品ながら、監督の真面目さがその爆走を邪魔してしまっているようにも見える、とても愛おしい作品でした。何より本作の製作でやりたい放題しすぎた結果、自身の製作会社ヨーロッパ・コープの経営は傾き、最近はNetflixがその株式を買収したという報道も出ている始末ですから、リュック・ベッソンを助けるつもりで劇場に駆けつけましょう。

 さて本作『ヴァレリアン』、兎にも角にも冒頭が素晴らしい。デヴィッド・ボウイの♪Space Odidityをバックに、舞台となる「アルファ宇宙ステーション」に三千以上の種族が集まる過程を語ります。実に数々の種族から成るこのアルファ宇宙ステーションは、EU・欧州連合のメタファーである事は明らかで、そう考えるとアルファ宇宙ステーションの発展の裏で滅ぼされた原始的な生物が住む星ミュールは、おそらくヨーロッパ諸国がかつて植民地支配をしていたアフリカの国々のメタファーと見る事ができます。
 この『ヴァレリアン』は、現在、結束が危ぶまれているEU諸国を舞台に、ヨーロッパの国側がかつての植民地支配を反省するという非常に今日的な物語なのです。しかし、それ以上に現代的なのは「女性」キャラクターの造形でした。
 リュック・ベッソンが「強い女性」を一貫して描いてきたのは言うまでもありません。それは母子家庭で、強い母親の下で育った監督の女性への尊敬の表れという見方もされる事もあります。本作におけるヒロイン=ローレリーヌは、だらしのない主人公ヴァレリアンを先導する芯の強い女性として描かれます。加えて男性の好みに応じて自らの容姿を変化させる宇宙人バブルも、悲劇的な人生を耐え文字通り柔軟な強さを持つ魅力的な女性キャラクターでした。
 本作におけるダメな男を引っ張っていく強い女性キャラの造形は、過去作『フィフス・エレメント』では、強い一方で言葉を失っているためダメダメな男性に先導されざるを得なかったリー・ルーの現代的なアップデートに見えます。

 バンド・デ・シネマ、フランスのコミックを見て育ったリュック・ベッソンらしい色彩使い。行き当たりばったりの話運びも、画面の端から端まで狂った映像によって気にならなくなってくるというのも不思議なものです。
 B級である事を全く気にも留めずに突っ走る作品ですが、物語のラストはやはりと言うべきか「愛」に辿り着きます。荒廃した未来の地球で女性を奪い合う『最後の戦い』、未来の地下鉄で愛を知る『サブウェイ』、そして「地球が愛を救った」『フィフス・エレメント』と、いつもリュック・ベッソンのSF映画は「愛」に終着していたことを思い出します。どんな荒唐無稽な世界でも、やっぱり宇宙を救うのは愛でした。
茶一郎

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