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タルーラ 彼女たちの事情のsoffieのレビュー・感想・評価

タルーラ 彼女たちの事情(2016年製作の映画)
3.6
2016年公開

「JUNO」のエレン・ペイジが主演している。

この映画を見ようと思ったきっかけはFilmarksのフライヤーの女性がカッコイイなと思って、ストーリーの解説を読んでカテゴリーを見たら「コメディ」と書いてあった。

幼児を連れ去る話でコメディって…??(意味不明😓)
高評価だし観てみようと思った。

結果、コメディでは無かった。
(当たり前だ、米国では幼児誘拐は重罪だから、どんな脚本でもコメディのはずが無い)

主人公のルー(エレン・ペイジ)はバンで生活しているホームレス。
働くにも現住所が無いので働けず、世間から邪険に扱われる事に馴れて、何でも盗む事に慣れている。
生きていくために必要な事。

NYの街を見に来た時
マンハッタンのセントラル・パークでマウンテンバイクの車輪を盗まれて最悪の気分になっているハンサムな青年に出会う。
どこから来たの?と聞かれたから、貴方は?と尋ねると
「あそこ」とセントラル・パークに面したマンションの高層階の窓を指さす。
紛うことなき上流階級のお金持ちで、全く別世界の人なんだとすぐに分かる。
数日、会って話をするような関係になったが、ルーはそろそろNYを離れると彼に告げると「ボクも一緒に行く、キミの生活最高じゃないか!今からNYを一緒に離れよう!」
と彼はルーと一緒にホームレスになる。

2年程過ぎて、かっぱらいと無銭飲食とゴミあさり生活に嫌気がさした彼は
「NYに行こう、セントラル・パークが恋しいし、母にも会いたい、ゴミあさりしてもシャワーも無い生活はもうゴメンだ!
仕事を見つけて、僕と結婚して子供を作って生活しようよ!」と言われるが、ルーにはホームレス生活は現実逃避や暇つぶしでは無い。
「そおいう話やめてよね!」と言った翌朝彼はルーが寝てる間に消えて帰って来なかった。

食べ物もお金も底を突き、さよならも言わずに去った彼に腹も立っていたルーは、NYのマンハッタンの彼の母親がいるマンションを尋ねるが、彼はまだ戻っていなくて、母親のマーゴには邪険においはらわれる。

空腹で倒れそうになりながら、金目の物と食べ物を求めて高級ホテルの中に紛れ込み、客室の廊下に出された食後のルームサービスのお皿をあさっていると、部屋の扉が開き「あなた客室係?ちょっと来て」と金髪の派手目の美人に声をかけられる。

部屋の中には金目の物があるので、用心しながら入って行くと、部屋の中は高級デパートの紙袋だらけで買った物が散乱し、その中で真っ裸でオムツもしていないやっと立ち上がった位の赤ちゃんがウロウロしている。
女性は赤ん坊がまるで目に入っていないかのように、自分の髪とお化粧とドレスと体型の事ばかりぐるぐる話し
「キレイにして行きたいの!私の体型どう?主人には内緒よ!素敵な男に会いに行くの!魅力的にしていかないと!ホテルの男性客室係は手玉にとっておかないとねw」と言ってワインボトルを運んで来たホテルマンにぶチューとキスをする。相手の迷惑そうな反応は見ていない。
「私出かけるわ、全く、赤ん坊なんて要らないのよ、嫌いだわ、産んだらどうにかなると思ったけど、全く可愛くない」そう言って100ドルのチップを渡してルーにベビーシッターを頼んで出て行ってしまった。
さすがのルーも赤ん坊を一人置いて部屋を出る事は出来なくて、一緒に母親の帰りを待つことにするが…

ここから物語は展開していく。

母親に見捨てられ、会ったことも無かった父親という男に引き取られ、その後1人でホームレス生活をしているルー。

マンハッタンの高級アパートメントで生活していても、父が男の恋人を作って同棲を始め、母に離婚訴訟を申し立て、自分に依存してくる母親にうんざりしてホームレス生活に飛び込んだ息子。

夫に離婚訴訟を申し立てられ、息子はある日突然出ていってしまい、仕事と高級アパートメントはあるけど人生が孤独のどん底のマーゴ。

全く赤ん坊に注意を払わず、「1歳なんだから自分のこと分かってるはずよ!」と言い切り窓から落ちそうでも「落ちらたホテルを訴えるわ!」と育児放棄している母親

命の危険に晒されている赤ん坊を見るに見兼ねて守ろうとした結果どうなっていくのか…。

この映画の結末は赤ん坊が連れ去られた時から分かっている。
ルーと
マーゴと
赤ん坊がいなくなってから「夫に見捨てられる!」と半狂乱になる母親。

私の感想は、出てきた男性達が違っているようで皆同じなのが気になった。ルーの恋人になった青年。マーゴの夫、赤ん坊の父親。

男達は常に世間体を気にして「いったい何をしでかしたんだ!!」と女を責め立てている。全て、女の責任「お前のおかげで僕に迷惑がかかったらどうするんだ!!」とパニックを起こしている。

…元をたどると全の元凶は「男」なのだが、彼等は決してそうは考えないし、自分は女のおかげで酷い目にあった被害者だと思っている。
そして「でもこうやって貴重な自分の時間を割いて、お前がしでかした問題の解決のために協力してやってるんだ、全くお前は何も出来ない女だ!見捨てたとわめくがちゃんと面倒見てやっただろう、なのに感謝の言葉も言えないのがお前だ!全く厄介な女に引っかかったもんだ!お前のおかけで僕の人生はめちゃくちゃだ」

…と言う台詞は出てこないが、男達の心情を言葉にすると上記のようになるだろう。

マーゴの仕事が「歴史的結婚観」を研究している学者というのも深い意味があると思う。

ルーとマーゴはそれぞれ赤ん坊の事を考えているが、マーゴの夫と、ルーの恋人、赤ん坊の父親と母親は自分の保身を考えている。

どんなに酷い扱いをされていたとしても、法的手続きを踏まずに他人の子供を連れ去るのは犯罪。

行政や周りの人に、あそこの子供が大変な事になっていると知らせても、良くて注意が行くだけで子供の現状は変わらない。
最終的には施設に移されるという結果になる。

映画の中で児童相談所の職員の女性が
「問題のある家庭の親は2種類、貧しいか、依存症」という台詞がある。

頼る人がいなくて大人になりホームレスになったルーと。マンハッタンの高級ホテルの一室で真っ裸で放りっぱなしにされていた赤ん坊。

この映画の主題は「人はいつか死んでしまう。この世に繋ぎ止めているものは何か」

男は満足を求めて女を追いかけるので、自分が飽きると無関心になる。
そして「男の責任」として自分のテリトリーに置いてやってると思っているが、それは「世間体」の間違い、世間体を気にして面倒を見てやってると言うと「小さな男」と人からバカにされるので「責任感の強い男」というアピールをしているが、他人にバレない所で驚くほどの冷淡さで無関心になる。
これが結婚している男性なら1日に3回くらい「妻が死んだら…自由だ」と頭の中で無意識に考えている。

男は満足を求めて
女は安定を求める
この永遠の平行線のため数多くのドラマと不幸が生まれる。

それを考えさせられた映画。

でもこの映画には救いがある。
「女を救うのは女だった」と言うと身も蓋もないのだが…。
生きていくためには、この世に繋ぎ止めておくものが必要だ。
多くの男性はそれを仕事に求め
女性は一緒にいる人間(家族)に求める

とっても良い映画。
観る時によって感想が変わると思う。
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