Daisuke

この世界の片隅にのDaisukeのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
[この"物語"の片隅に]

本作の主人公すずは、序盤からわかるように絵を書くことが大好きで、そしてその絵の中に「現実であったこと」を「物語」として落とし込んでいる事もわかる。

今作では、全体を通すアニメーションと「手書きの絵」のようなアニメーションが融合して描かれる。
「空襲のシーン」では空にカラフルな絵の具が広がるようなシーンがあり「こんな時に絵を描きたいなんて」とすずは言う。
目の前の描写と「すずの内面」が同時に描写されているシーンだ。
そして「時限爆弾」のあの痛烈なシーンなど、手書きの絵にすることで抽象となり、さらに私の想像力へとダイレクトに響いてきた。

起きてしまった物事を、絵(物語)として置き換える事、それは私もよくやっている事だった。だからこそ、この作品は「絵」がもつ「人が絵を書くこと」と、「物語」がもつ「人が物語を描くこと」この両側面の本質をも内包していると思ってしまった。

それはもちろん「アニメーション」である事で、その「絵」が動いて現実味を増幅させ「映画」であることで、その「物語」の中に重層的な効果が生まれたからかもしれない。

それにしてもなんて厚みのある作品だろうか。

ほとんど知らない土地
ほとんど知らない時間
ほとんど知らない戦争

だけどその上に、今の自分がいる。

この物語の、延長線上の、

片隅に。
Daisuke

Daisuke