Daisuke

シン・ウルトラマンのDaisukeのレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
3.9
[虚構から現実へ]

※「ここからネタバレ」以降は、鑑賞後に読んでいただければと思います。

※ラストカットの意図について
まためちゃくちゃカッコつけて書いてます


自分にとって「ウルトラマン」は少し上の世代のものだったため、リアルタイム性のあるものではなく特に好んで見ていたものでもない。ただスーパーファミコン時代のゲームで初めてウルトラマンに触れ「ゼットンつえー!」と心躍らせた事だけは強く覚えている。

銀色のボディ
無機質なたたずまい
そして、敵を切り裂く暴力性

ウルトラマンは自分にとってヒーローではなく、実はとても不気味な存在だった。それは後にエセ映像と発覚する宇宙人捕獲映像の「リトルグレイ」に似た不気味さを感じていたからだ。

本作はそのウルトラマンが初めて地球にやってきた作品として描かれていた。「シン・ゴジラ」同様の迫力ある演出の数々、そして「ウルトラマン」そのものへと焦点があたる。特に知識がなくとも楽しく鑑賞していたが、一つ気になる点があった。それはラストカットである。

私は鑑賞直後、なぜか「シン・ゴジラ」のキャッチコピーである「現実対虚構」を少し変えた「虚構から現実へ」という言葉が浮かんでいた。

今回の映画の構成とラストカットの構図。
そして最期のセリフと最期の曲。

何か一本の答えが浮かんできていた。






------ここからネタバレ----------






今回の「シン・ウルトラマン」の構成は本当に驚いた方も多いと思う。

まず冒頭では「ウルトラQ」のオマージュを行ったタイトルでスタート。そして古めかしい演出や音楽ですでに「禍威獣(カイジュウ)」が日本を襲っていたと知らされる。

そして宇宙からやってきた銀色の巨人と、今作の主人公である神永新二が融合し、「狭間の者」としてのウルトラマンが誕生する。

最初の敵はネロンガやガボラ。
行動原理としては動物に近く、知性はない。何か昔ながらの特撮映画の戦いに見えた。

続く敵は外星人ザラブ。
これは知性を持っており、偽ウルトラマンとしてウルトラマン抹殺計画を行おうとする。面白いのは、偽ウルトラマンという虚像で政府を掌握するところであり、これはインターネット時代による虚偽の情報に右往左往する現代への風刺としても見ることもできるところだ。

次に外星人メフィラス。
ここから驚くほど高い知性を持つ敵がやってくる。あの交渉もまた、アメリカによって守られている我々日本にはとても痛い皮肉と見ることもできる。
※余談だが、以前から個人的にサイコパス役がピッタリだと思ってた山本耕史があまりにハマり役で最高だった

最後にゼットン。
これはもう手が付けられない超兵器である。現在のウクライナとロシアの情勢を見ていると、ロシアが隠し持つ”ゼットン“を出されたら世界はどうなってしまうのか?という恐怖が頭をよぎる。

これらをウルトラマンと、そして地球人達も科学の力と共に乗り越えるという展開はとても熱い。
そして、この構成は製作陣(特に脚本の庵野秀明)の意識的なのか無意識的なのか、とても「興味深い構成」に満ちていた。

その構成とは
「虚構」(言い換えるなら「空想科学」)から
「現実」(言い換えるなら「私たち」)へ
とゴールする流れだった事だ。

冒頭では「ウルトラQ」のオマージュや昔の音楽を使う事で、鑑賞者は強制的に昔の空想科学時代へと意識をタイムスリップさせられる。

そして現れる敵は後半に行くにつれ知性が上がり、そして付随する現代とのリンク性も高まっていく。つまり、ただ向かってくる単調で虚構的な敵から、知性があり現実でも起こりうる恐怖、現代性へと進んでいく。

古き空想科学から、現代性、そして現実性へとシフトしていく。

それはウルトラマンに内包する「宇宙人」と「人間」のハイブリッドのように、この映画を鑑賞している我々は「虚構から現実」へと意識がハイブリッドしてくる。

主人公であり、ウルトラマンである「彼」は、最後にウルトラマンと分離する事で物語は終わる。そして地球に戻ってきたあのラストカットの主人公こそ「ウルトラマンという虚構」から分離され、現実へと戻ってきた「鑑賞者」である我々自身ではないだろうか。
なぜならあの映画の構図は、出演者達から鑑賞者の我々の方に向けて、このセリフで終わるからだ。

「おかえりなさい」

そして、暗転し間髪入れずに流れる曲のタイトルは米津玄師の「M八七」である。
虚構である「M78」ではなく、現実に存在する「M87(NGC 4486、おとめ座A)」になっている事も、おそらく虚構ではなく、現実への帰還を強く感じさせる要因ではないだろうか。
(エンドロールでは古いウルトラマンの曲は一切流れない)

ウルトラマンという虚構から
私たちの現実(今)へと戻ってくる

そしてウルトラマンのいないこの世界で
私たちはどう選択しいけばいいのだろうか?なんて、そんな事は正直思わないけれど、

それでも、少しだけ夜が明るく見えた気がした
Daisuke

Daisuke