がんがん

シン・エヴァンゲリオン劇場版のがんがんのレビュー・感想・評価

5.0
「おはようエヴァンゲリオン」

エヴァQから約9年ぶり。もうエヴァって終わらないと思ってました。永遠に未完、終わらない物語なのだと。でもちゃんと終わらせてくれました。

庵野監督のクリエイターとしての矜持を存分に味わわせていただきました。ちゃんと公開に至れたこと、そして公開初日に無事に観ることができて感無量です。


「おやすみエヴァンゲリオン」

新世紀エヴァンゲリオンから約25年。旧から新へ。ガイナックスからカラーへ。ほんとうにお疲れ様でした。庵野監督はじめ、制作に携わられた全ての方々へ。ほんとうに、ほんとうにお疲れ様でした。

すぐにシン・ウルトラマンの公開が待っていますが、ひとまずどうぞゆっくり休んでください。


「ありがとうエヴァンゲリオン」

中学生から出会い、青春の全てとともに走ってきたエヴァ。大人になっても一緒に走ってきたエヴァ。ありがとう。

新劇のこれまで全てを初日に観てきたエヴァ友と、今回は残念ながら一緒に観ることはできなかったけれども。

度重なる天変地異の災害、予測不能のパンデミック、25年前には想像もつかなかったことがこの世界には起こりすぎて。

それでもにんげんはきっと乗り越えられるし、前に進み続けることができる。生きてさえいれば。きっとエヴァの完結を楽しみにしながら人生を終えられてしまった方もたくさんいる。

たくさんのことが起こりすぎてしまった今だけれども。テレビ版や旧劇でのこころの疲労。ようやくリビルドを作り出すと新劇を走らせた直後の震災から、Qと風立ちぬとシンゴジラでのこころの回復を経て、こうしてエヴァンゲリオンに決着をつけてくれた庵野監督にはありがとうの感謝の言葉以外に伝えようがありません。

ほんとうにありがとうございました。


「さよならエヴァンゲリオン」

もう庵野監督がエヴァを作ることはないと思います。

全てを描き切ったから。

さようなら、全てのエヴァンゲリオン。























以下、ネタバレありでエヴァンゲリオンという25年ごしのコンテンツへの思いの丈を…



序、破、Qだけでなく。テレビ版も、旧劇場版も漫画版もその全てを補完したシン・エヴァンゲリオン。

テレビ版の1話から6話を再構築したまさに序章となった序。

テレビ版の8話から19話を再構築した超弩級の破壊的エンターテイメントの破。

テレビ版の24話のエッセンスをもとに、完全に新たな14年後の物語として賛否両論を生み出し、数々のクエスチョンを頭の中に残した異色のQ。

そしてその全てを否定することなく肯定し、旧劇場版も漫画版も破の嘘Q予告すらをも補完し、完全なる完結へと物語を紡いだシンエヴァ。完全「新」作のそれはアニメーションを「進」化させ、文字通り「真」のエヴァンゲリオンだったし、シンジは自身の「Sin」(罪)を乗り越えることができたし、「親」族と向かい合い、「神」話となった。いくつものシンの意味が込められていた。


エディプスコンプレックス(父殺し、父親を息子が乗り越える物語)からの、全てのエヴァンゲリオンが存在しなくなった世界の再構築へ。

旧劇で描かれたエヴァはアダムとイブとして、シンジとアスカが地球に生き残った御伽噺でした。出来損ないの群体として行き詰まった人類を、一つの個として全て等しく一体化し、生命の誕生をやり直した人類補完計画。しかしシンジは自らの力で何も乗り越えられず、アスカを助けることのできなかったため、気持ち悪いと拒絶されたバッドエンドでした。

シンエヴァでは、シンジは父親をようやく乗り越えることができました。父親に立ち向かい、父親と対話し、父親の話に耳を傾けて、ようやく父親を越えていき、心身ともにシンジは大人になることができました。

テレビ版最終話では集団カウンセリングの中でのセラピーにより他者から認められた。その自尊感情を肯定することができず、精神崩壊のまま終わってしまった旧劇。

しかし、今回の物語ではきちんと自らの意思で他人と関わることを選び、もうエヴァンゲリオンに乗らなくてもいい世界を自らの意思で選択した。もうシンジはエヴァンゲリオンのパイロットとしてしか認められないのではなく、自らの精神と、自ら生きようとする力で他者から認められることに努めようとしたから。

全てのエヴァンゲリオンのない世界。もうエヴァに乗らなくていい世界。他者と向き合い、他者と傷つけ合い、他者と触れ合える世界。

世界は優しさで満ち満ちている。

その世界の優しさに気付いていながらも自らの罪の贖罪の方法がわからず、前に進むことはできなかった。なぜなら自分の行動に起因する責任から逃げていたから。

かつての旧友が生きてくれていたこと。生き残った人々はちゃんと前を向いていたこと。それぞれがそれぞれ大なり小なりの己の罪に向かい、ちゃんと前に進んでいたこと。綾波を救いたかっただけなのに、その結果、世界のほとんどを滅ぼしてしまっていたが、それでも綾波のことだけではなく、たくさんの人々をも救っていたこと。人々の優しさに触れてようやく気付くことができた。

自分の起こした結果に対して、自分なりの落とし前をつけようとようやく覚悟することができた。もうシンジは子供と大人の境界線が曖昧だった14歳ではない。

自分がしたことは自分で決着をつける。たとえ誰かを傷つけ、人から傷つけられることになるかもしれないけれども。

ヤマアラシのジレンマをようやく乗り越えて、父親を含めた他者たちと向き合うことで。差し伸べてくれた手を掴むことで。また自らが相手に手を差し伸べることで。

その世界の優しさを守ることの大切さに気付けたシンジ。

このシンエヴァをもって、碇シンジというひとりの少年の物語は幕を下ろしました。










以下、発見できたイースターエッグ的ポイント。


パリ作戦残り時間「11:03」のカウンター。3.11をやり直すことはできないけれども、乗り越えることはできるというメッセージだろうか。2回ほど意味深に出てきたケンスケの車のナンバーの「1701」は何を示唆してるのかわからない。


ジブリオマージュなメロディアスなサウンドと明朝体オープニングクレジット。コア化された赤い大地がまるでナウシカの腐海のような。空の青と大地の赤がとても綺麗。


シュガシュガルーン、オチビサン、安野モヨコ。奥様への愛があいかわらず深い。


DSSチョーカーのトラウマで嘔吐するシンジ。何も食べてないのに吐くのは胃液しかでなくて本当につらいと思う。どんなに罵詈雑言を投げ掛けてもシンジに対して優しいアスカ。DSSチョーカーが見えないように布を首に巻いたり、家出の様子を隠れて見守っていたりと優しさの極み。


今回シンエヴァでは撮影方法を色々と試行錯誤したらしく、iPhoneで撮影したかのような臨場感あるカットがいくつかあって楽しかった。アスカが無理やりカロリーメイトを食わせるところは、アスカの動きもロトスコープっぽくヌルヌル動いてたのと、カメラの動きが独特で面白かった。というかあのカロリーメイト2400キロカロリーもあるとか…とんかつ定食2食分くらいもあるやん!


シンゴジとそっくりなデザインの防護服。加持リョウジのこの登場の仕方は本当にズルい…ミサトママを知らないというのがズルい…


ケンスケのビデオカメラの残り録画時間が劇中の残り時間とリンクしていたような気がする。残り1時間55分で、そのあと残り1時間30分くらい。なんとなく体内時計と合ってたので、これは円盤になったら計測してみたい。


たんぽぽの綿毛のようなデザインのさまざまな種子を運ぶプラグ。命を運び、大地へと運ばれていく。命と土がたくさん丁寧に描かれていました。加持さんのスイカもちゃんとあったのが泣ける。


惑星大戦争のテーマ。ヴンダーによるヤマト作戦。シンゴジの宇宙大戦争みたいな特撮っぽいテーマがまた来たー!?何これ!?ってなりました。これめちゃめちゃイケイケドンドンなマーチで最高にかっこいいです。そのあとの新2号機+改8号機のシルバーサーファーみたいな登場からの親子カメハメ波も最高。


新2号機α(JA-02 Body Assembly)これジェットアローンがくっ付いてたんか!スパナみたいなでっかい鎌も含めてプロダクトデザインがかっこよすぎ。


シンジが家出したネルフの廃墟はヤシマ作戦の時のあの建物でいいんかな?序で綾波からさよならを言われて、またシンエヴァでアヤナミからさよならを言われたのに、ちゃんと乗り越えることができたシンジはやっぱり大人になったんだな…


テレビ版のセラピーをやり直したゲンドウとの箱庭療法。舞台装置としてのわざと安っぽいCGの市街地戦や、テレビスタジオのセットなどメタ演出はツボでした。エヴァといえばやはりこの心象風景がないと物足りない。あのゲンドウの独白は完全に庵野監督自身のそれですよね。「なんでみんなこんなに優しいんだよ!」もきっと監督のことを見守り助けてきた奥様や、宮崎駿監督や、たくさんの人たちへの想いなんだろうな。「無口なのはいい、だが出された食べ物に手をつけないのはいけない」これも監督自身が過去に大人から言われた言葉なのかもしれない。シンジの性格について言及するわけではなく、トウジや委員長の優しさを無視しているシンジのことを怒るのではなく叱っているのがすごくいい台詞回しだった。


ずっと14年間初号機の中で生き続けていた綾波。髪が貞子ばりに長いのが途方もない孤独な年月の経過を伝える。アヤナミシリーズのつばめをもっと抱きたかった、という想いが受け継がれてるのも良き。


「ネオンジェネシス!」…バルス!かな?


渚司令→シ者の指令だったんだね。カヲルくんだけループして何度も何度もシンジの幸せを追いかけてくれてた。破の時のQ嘘予告すらもここで回収した。というかQを見直すと全て伏線でびっくりする。嘘予告で渚司令として命令を出しているカットがあるし、カヲルくんが加持さんのスイカ畑にいたのも、全てQで描かれている。


加持さんの特攻。ミサトさんの特攻。前者は世界を守るために。後者はシンジを救うために。なんという自己犠牲の精神に溢れる夫婦。あと加持さんの特攻の設定が追加されたので、QIMAX版3.333のセントラルドグマに墜落してた戦闘機がヴィレのロゴに変わってたということなのか。IMAX版変更映像分もシンエヴァのブルーレイが出た時に特典で入れてほしいな。


イスカリオテのマリア=「裏切り者のイスカリオテのユダと、母なるマグダラのマリア」の通り名をつけられたマリ。人類補完計画を進めるネルフのゲンドウ側を裏切り、ヴィレ側についてジンジと結ばれた。つまりはアダムとして生き残った旧劇に対して、シンエヴァではシンジはキリストになったのでしょうか。イスカリオテってワードはアスカの特典ポスターの裏面を見ないとさっぱりわからなくて、「なんちゃら王手??冬月先生将棋好きやもんな??」としか最初思いませんでした。


ガイウス・カシウス・ロンギヌス、これで一人のひとの名前なんですね。絶望のロンギヌス。希望のカシウス。ではガイウスは何だったのだろう。創造の槍?再生の槍?新生の槍?


アディショナルインパクト、エヴァオップファータイプ、アドバンスドアヤナミシリーズ、エヴァンゲリオンイマジナリー。この辺はさすがにコアコンピタンスにコモディティ化されたジャストアイデアでコミットするろくろを回している意識高い系社長過ぎてなんか笑いそうになりました。



Air / まごころを君に、のリビルド。

「量産型エヴァ」と「2号機との死闘」=「Mark.09〜12」と「8号機との死闘」ほんと2号機と8号機はニコイチ。吹っ飛んでくる2号機の頭までちゃんとトレースしてました。

「ロンギヌスの槍で目を貫かれるアスカ」=「封印柱を目から引っこ抜くアスカ」旧劇で初めて観た時は思わず声が出るくらい死ぬほど痛そうなアレでしたが、今回も死ぬほど痛そうでした…

脇腹を撃たれたミサトさん。大人のキスはなかったな。もうシンジは子供じゃないんだな…「いってきます」「いってらっしゃい」は死ぬほど泣けるリフレイン…

今度はゲンドウを撃つことができたリツコさん。もうカスパーは裏切らないし、リツコさんも母を頼りにはせずちゃんと自分の意思で、かつて愛した男との決着をつけた。自分の飛び散った脳みそを頭に戻すところ、まるで床に落ちた梅干しを拾うくらいのテンションでやってのけるゲンドウ。

巨大綾波レイ。12枚の白い翼。赤い瞳にささる槍。甘き死よ、来たれはさすがに流れませんでしたね。

シンジとアスカの浜辺での会話。もう気持ち悪い、なんて言わせない。お互いに「好きだった」っていう過去形なのがすごくいい。実年齢28才くらいなので、同窓会で久し振りに会った2人が過去の甘酸っぱい思い出を懐かしむかのような。アスカの髪の毛が伸びてて、身体が少し成長してるからプラグスーツが破れてる表現が良い。


旧劇まで含めて、きちんとリビルドしてました。リバイバル上映でちゃんと観ておいてよかった。インターミッションまで挟んでくれたら完璧でした。



ラストの駅のホーム。

天地開闢。

シンジはみんなとは別側のホームで電車を待っていて。マリが背中から目隠しでお待たせと言う。つまり新たな世界の始まり。そして手を取り合いホームの階段を駆け上がる。

みんなは電車を待っていたけど、シンジとマリは駅を出て街へ歩いていく。

エヴァというコンテンツにもう少しいてもいいし、エヴァを卒業してもいいよっていう両方のメッセージだったのかな。

庵野監督の故郷である山口県宇部新川駅のアニメーションから実写へのシームレスな移行。恐らくなんとかホテルが出てきたくらいで実写に移行されていたはず。あまりにも違和感なく実写になっていて、凄まじい技術だと思いました。

シンジたちの世界と、わたしたちのこの世界は地続きなんだよ、ということかな。



Beautiful World(Da Capo Version)

ダカーポとは、もう一度曲の頭から始めよ、と指示する音楽記号。そしてシン・エヴァンゲリオン劇場版のタイトルのあとに付与されたリピート記号。

わたしたちのこころの中で、きっとわたしたちのエヴァンゲリオンが再生され、わたしたちのエヴァンゲリオンの旋律が再生されている。



終劇
がんがん

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