【不器用に寄り添う2人】
アイルランド。両親を亡くしたステイシーは、仮出所した伯父ウィルと暮らし始める。子供っぽいウィルと口の悪いステイシーは、ぶつかりながらも新生活を始めるが、ある日ウィルの服役理由が明らかになる。
アイルランドの侘しい田舎町で暮らすステイシーとウィルのやり取りを描いた作品。ウィルは子供っぽくて少し粗野、そしてステイシーは、ませてて口が悪い。
例えばウィルがちょっかい出して、
ステイシー「ねえ!(ヘイ!:Hey!)」
ウィル「なんだよ、ヘイは干し草(ヘイ:Hay)だろ」
なんてくだらないのに、愛情を感じるからそんな2人のやり取りに愛おしくなる。
ステイシーは、母を亡くし1人になった。彼女はナプコレプシー(睡眠障害)を患い、日中突然眠ってしまう。彼女の面倒を見るために伯父ウィルが恩赦で出所し、2人は田舎町のトレーラーパーク(トレーラーハウスの住宅街)で暮らし始める。ステイシーは口が悪いけども母親がしっかりしていたのかシリアルは砂糖少なめを選んだりルールは守ろうとする。一方ウィルは子供っぽくて、そんなことは気にせず食べ物もおいしければいいし時にルールを破ってしまおうとする。そんな対称的な2人の元にある日近所のトレーラーハウスの女性エミリーがやってくる。
エミリーは、元教師でステイシーに勉強を教え始める。そしてステイシーとウィルはエミリー一家と家族ぐるみの付き合いを始めるのだ。ウィルにとってエミリーは単なる友人だけど、ステイシーにとっては母がほしかったのだろう。ウィルにエミリーとの浮気を勧める。一方でエミリーの夫ティボーとは、二日酔いのウィルの介抱や職探しでお世話になる。
ウィルとステイシーも、エミリーとティボーも、トレーラーパークに住む人々は決して裕福ではない。それにみんな不器用で、人によって粗野だったり教養がなかったりする。それでもみんな優しくて、思いやりが感じられる。アイルランドの侘しい田舎の風景と、人々の不器用な愛情がマッチしている。
しかしステイシーが、ウィルの服役理由を知ろうとしてストーリーは展開する。ウィルはステイシーの父の死に関わっていたのだ。ステイシーにとっては、ウィルが実父の死に関わっていたことを受け入れがたく、ウィルから離れようとする。ただステイシーは、次第にウィルに助けを呼びたくなるし、ナプコレプシーの薬を忘れたために知らない場所で眠ってしまう。一方のウィルはステイシーを探し出そうと躍起になり、カウンセラーへの電話を忘れる。
すれ違いは悲しいけれど、互いに相手のことを想っていることが感じられるシーンだった。
2人は再会するもウィルがカウンセラーへの電話を忘れたために、仮出所取り消しの危機に会う。そしてステイシーにステイシーの父の死の真相を話す。それはウィルの優しさから起きた不慮の事態に、彼の粗野さから想わぬ方向に転がった事件。悪い人ではないが不器用というウィルの欠点のために服役していたのだ。
そしてウィルが刑務所に戻る日、彼はエミリーとステイシーと逃げることを決意。しかしエミリーは消えていた。エミリーもまた不器用だからウィルとティボーの間で揺れ逃げてしまったのだ。ウィルはやけになり諦めて刑務所に向かい、ステイシーとウィルは離れ離れになる。
ラストシーン。ステイシーとウィルは限られた時間の再会を果たす。久しぶりの再会なのに、2人の不器用なやり取りはそのまま。ウィルは港町コークで仕事を見つけ、ステイシーはダブリンの里親と暮らす。2人はその後も離れ離れだけど、やり取りは昔からの親子のよう。この2人のやり取りをずっと見ていたくなる作品だった。
印象に残ったシーン:ウィルがステイシーにちょっかいを出すシーン。ステイシーとウィルが再開するラストシーン。
余談
・原題”You're ugly too”は、作中のジョークでは「おまけにブサイクだ」という意味です。そのため邦題「君だってかわいくないよ」は誤訳と言えます。ただ口の悪いステイシーとウィルが言いそうな言葉で、彼らの不器用さを表しているような気がします。
・今作は3週間で撮影されたそうです。