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クリーピー 偽りの隣人のRenのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
3.5
サイコパスが活躍(?)する日本映画といったら忘れてはいけないのがこれ。前川裕の小説も怖くて面白かった記憶があるが、こと今作に関してはフツーに黒沢清の映画になっていた気がした。これが作家性よ。

サイコパス殺人鬼・西野(香川照之)の独壇場。人の心が無くかつ表層が魅力的なわけでも特にない、「こんな隣人は嫌だ」のバラエティパック。熱量を抑えつつも狂気だけは抑えられない最悪の人間を、大御所の余裕ある演技で体現している。

現実に即したような恐怖!ではなく、どちらかと言うと都市伝説とかダークファンタジーのような質感を楽しむ映画で決定でいい。ドア一枚向こう側に入った瞬間に そんな間取りあるかいとツッコまずにはいられない家、どこで手に入れたのか分からん注射器、まるで夢の中を走るような車(『ネバーエンディング・ストーリー』っぽい)、ハナからリアリティは狙っていないのが見てとれる。
そして隙あらば「半透明の衝立」「無駄に広い部屋」「風に揺れるカーテン」といった黒沢清印も盛り込んでおり、生理的不安/恐怖も煽ってくる。

当然 西野がヤバいのは一目瞭然なのだけど、高倉(西島秀俊)もかなり序盤から大丈夫かこいつと思わせる挙動をとる。自身の好奇心と知的欲求のために不謹慎な発言をしてしまうなど、西野の影に隠れているだけで彼もなかなかに怖い。
エンドロール直前の某人の絶叫は、今までの苦しみと恐怖心がドバッと溢れ出たものなのか?今後待ち受ける不安と恐怖を思ってのことなのか?は、前述の人物像を加味すると色々な見方ができそう。

不満点は警察周辺の描写のほぼ全て。西野が印象的なのは、警察が無能過ぎるあまり相対的に評価が上がってしまうから、というところもある気がする。単体でインパクトを残せるキャラクターなのに....。
あと『死刑にいたる病』を観た後だと、こと「洗脳・支配」の本質に迫っていたのはそちらのほうだったなとも思いました。

個人的には、他の黒沢清作品(『CURE』とかがおすすめ)を観てから今作を鑑賞することを推奨したい。サスペンスの構成としてはツッコミどころ満載だとしても、節々に感じる黒沢清味(前述のモチーフの数々、ライティングの明暗 等)で楽しめる可能性が広がるので。
黒沢清エッセンスが降りかかったサスペンス。肉の質は良くないかもしれないけど、クセになるタレのおかげで楽しめる焼肉のような感覚で楽しんでほしい。

その他、
○ 東出昌大の真骨頂は目がギンギンになってしまった何考えてるのか分からない人間役だと信じているので、その点はちょっと消化不良。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










催眠状態にかからなかった高倉。泣き叫ぶ妻。
一連の言動から見るに、高倉も正直 社会不適合者な面を持ち合わせており、言ってしまえばサイコパス的な人物なのではと予想する。でなきゃ被害者の前で事件について「面白い」とか言わないから。物語上不要とも取れる川口春奈の役回りは、おそらく "高倉サイコパス説" に説得力を持たせるための駒。

新生活が上手くいかない康子(竹内結子)。目の前で西野が射殺された後の叫びは、洗脳が解かれた安堵と、高倉との生活がまた始まってしまう恐怖が混ざったが故の絶叫なのでは?
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