もけ

かごの中の瞳のもけのレビュー・感想・評価

かごの中の瞳(2016年製作の映画)
3.5
盲目の妻が手術により光を取り戻した事から始まる心理劇。
予告編から夫の暴走の恐怖が描かれるのかと思ったらむしろ逆で、夫の戸惑いがより強く描かれてましたよ。

妻がまた目が見えるようになった事で夫の優位性や満足感が失われ、妻は本来持っていた強さを取り戻す。
でもこれ、一見夫がダメだったようにも見えるけど、実際はどっちもどっちだったよなぁ。「愛していた」と言いつつどっちもちゃんと相手に向き合っていなかったし自分勝手だった。

ハッキリ言ってストーリーは目が見えるようになって生じたズレがどんどん大きくなっていってそのまま最後までいき、結末もまぁ普通はそうなるでしょうねというものにしかなっていないので、ディティールについてはここでは触れない。
ただ、妻が見えるようになってから初めて市場に行った時、ある現地女性を見た時に「イヤなものを見た」という感じで目を逸らしたところで、貞淑な妻でもなんでもない、差別心もある一気にリアルなキャラクターになった感じがした。
見えてなければ差別心も湧かなかったろうに。
ここが示すように、目が見えるようになるのは本来嬉しい事のはずなのにこの夫婦はこれによって破綻する。
目ではなく心で触れ合う事の大切さを逆説的に描いてると思ったですよ。冒頭や後半のベッドシーンでの抽象描写はそれを表現しているように見えた。
でも、これは夫婦間だけの話ではないよな。

一応あるサスペンスはあるんだけど大体観ながら普通に予想がつくものだしそれが(妻側の)決定打になったとはいえ思った以上にサラッと描かれるので、正直もったいなかった。
もう一つ夫側の決定打になる妻の行動と結果もあるんだけど、これもサラッと流された感。
まぁどっちも衝突に発展しなかった時点でもうどうしようもない状態になってたんだから、当然の結末になるんだけど。

この映画を観てどちらかだけが悪いと断ずる人とは多分価値観が合わない。

正直、冗長な演出が多いなと思ったんだけど、後天的に光を失った人の見る世界、また見えるようになった人の見る世界の描写は結構リアルに感じたので(実際どうなのかは知らんけど)、今後観る予定の『エンジェル 見えない恋人』とそこらへんの違いもチェックしておきたい。

夫婦を演じたブレイク・ライヴリーとジェイソン・クラークの演技が良かったけど、特にブレイク・ライヴリーの繊細から大胆への変化が良かったなぁ。


(ツイッターに書いた感想に少々加筆してコピペ)
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