茶一郎

レディ・プレイヤー1の茶一郎のレビュー・感想・評価

レディ・プレイヤー1(2018年製作の映画)
4.3
 語彙力が吹き飛ぶ凄さです。
 一度、冷静になっても、バットマンとガンダムとキングコングと『AKIRA』の金田バイクと……とが同一作品内に登場するなんて凄すぎます。「◯◯ユニバース」の流行によりキャラクター同士が一つの作品内で合流する事は珍しくなくなった昨今ですが、鶴の一声ならぬスピルバーグの一声によって成立した本作『レディー・プレイヤー1』における作品を超えたカルチャーとカルチャーとの融合は、マーベル・シネマティック・ユニバースも裸足で逃げ出すレベルだと思います。

 ポップカルチャーが最高にクールだった80年代の記憶を、映画として体験できる『レディー・プレイヤー1』。物語は2045年の未来を舞台に、仮想現実世界オアシス内での「イースターエッグ」と、それを解放する三つの鍵の争奪戦を描くサブカル・エンタメ版『市民ケーン』の様相です。
 まず驚くのは冒頭、VRが日常的に当たり前な技術になっている世界のスムーズな説明でした。その世界観を主人公ウェイドが、自身の住むスラム街の集合住宅を降りる様子と重ねて流れるようなショットで全てを画的に説明し切ります。いやはや何というスピルバーグの職人芸。その後のカーチェイスや、語り口の緩急など、息を飲むほどに上手い演出を堪能しました。

 ソフト化された後、一時停止で画面の端から端までチェックする作業が楽しみになるほど、一つ一つの画が情報過多な本作。作り手による80年代を筆頭とするポップカルチャーへの愛は、それぞれに観客を感動させる力があります。
 しかし何よりも感動的なのは、スタンリー・キューブリック監督の「あの作品」を現代にIMAX3Dで見ることができたという事では無いでしょうか。言うまでもなくスピルバーグ監督は、キューブリックの愛弟子であり遺稿『A.I.』を映像化した張本人。原作にない「あの作品」を本作に入れ込んだスピルバーグの師匠への愛には泣かされます。

 「現実と向き合え」、『グーニーズ』やジョン・ヒューズ監督作品など、それこそ80年代の軽いエンタメ作と同様の軽快な語り口の本作が最後に提示するのは、現実世界への開けた可能性です。この純粋でド直球なメッセージには心を動かされずにはいられません。
 確かに「現実はそんなに辛いものではないよ」という楽観的すぎるラストですが、本作レディー・プレイヤー1』のポストプロダクション中にスピルバーグ監督が早撮りした、まさに「辛い現実に実際に起きた権力の濫用」を描いた『ペンタゴンペーパーズ』と合わせて見ると、いかに監督のバランス感覚が優れているのか真に実感させられます。
茶一郎

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