特濃ミルク

ヒッチコック/トリュフォーの特濃ミルクのネタバレレビュー・内容・結末

3.3

このレビューはネタバレを含みます

 1962年、当時すでにベテラン映画監督だったヒッチコックに、新鋭の映画監督トリュフォーがその創作論、作品論についてインタビューをする。その内容はのちに映画業界のバイブル「映画術」として結晶し、後続の映画監督たちにも多大な影響を及ぼしたわけだ。
 この「ヒッチコック/トリュフォー」では、その当時のインタビューの様子と共に、書籍の内容をいくつか抜粋、そしてそこにヒッチコック作品や「映画術」に多大な影響を受けた著名な映画監督たちのインタビューを織り交ぜてある。
 マーティンスコセッシの語りが良かった。ヒッチコック作品の細かいカット割りやその意図について非常に鋭い省察を巡らせていて、本当にヒッチコックが好きだから模倣を通しての一体化を目指して、研究しまくっているんだなと思う。普通の観客もこれくらいの姿勢で見なきゃだめだ。
 また、いくつか出てきたヒッチコック作品のキーワード…「善と悪の一体化」「罪の意識」「神の視点」「筋よりも画面のイメージが優先」「サイレントこそ至高」…などなど、まさにスコセッシ作品に重なる部分もあって面白い。
 あと大事なのはヒッチコックが、常に観客を意識していた、というところかな。独自の作風を持っていてかつ個人的には気難しい表情をした横顔の印象も強いので、頑固な芸術家タイプなのかと思いきや、めちゃくちゃ大衆を意識して作品を作っていたのか。
 「作品が大衆にウケたのが一番嬉しい」そうやって気を衒うでもなく言い切れるのがかっこいいな。なんとなく馬鹿にされがちだけど、大衆ウケってやつは狙っても難しいものだものね。
 …まあその後続の映画群は、とにかくウケればいいってんで観客に過剰なサービスを送るような、「起伏のない、クライマックスの連続」と成り果ててしまったのには、デイビッドフィンチャーもスコセッシも苦言を呈していたが…。
 詰まるところ、観客を意識するという事は、決して分かりやすくて派手な演出を満艦飾でぶちまけるような表面的なことじゃなく、謎やスリルへと向けられる純粋な感情を深層から沸き起こすような、ある意味で観客を信頼するという事なんだろうな。
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