オッペンハイマーの特濃ミルクのネタバレレビュー・内容・結末

　「原爆の父」、そして「世界の破壊者」オッペンハイマーの伝記的映画。
　約3時間の長尺ながらもストーリーはテンポ良く進み、個人的にはその長さを感じなかった。ただそのテンポが早すぎて、物語の大部分を占めるオッペンハイマーへの聴聞会パートにおいて(自分の頭の回転が遅いのもあるが)、人物関係やそれぞれの思惑を整理する間もなく流れていってしまった感じはする。よほど聡明な人で無い限り、予習復習は必須な映画かもしれない。
　内容に関しては…勿論感情抜きでは語れない部分もあるが…概ねフェアなものだとは感じた。被爆した広島の土地を、その被害者たちを直接的に描写する事もないので正直言って生ぬるい扱いではないかとも思うが、そもそもこの映画ではオッペンハイマーの半生とその功罪に焦点が当てられている事や、原爆の凄まじい破壊力、その恐怖を映像体験として充分に表現した事等(あとぶっちゃけただのノーランの物理学趣味…)を考慮して評価したい。
　プロメテウスは神々から火を盗み、人類に始まりをもたらしたが、オッペンハイマーは理論物理学を応用して核兵器を作る事で人類に終焉を、終わりの始まりをもたらした。(戦争の抑止力になっている間は、ある意味で平和をもたらしたとも言えなくはないが…少なくとも人類のバッドエンドに明確な形を与えたのは間違いない。)…それは歴史的必然であるし、なんならオッペンハイマーだけじゃなくて戦争以外の解決策を見出せなかった無能な連中全員に罪があるとは思うけど…それでもやはり、取り返しのつかないとんでもないものを作りやがったな、という感は拭えない。…やっぱ平気で浮気するようなやつって信用ならんな()。その相手が自殺した後の「自分で罪を作ったくせに、その後でメソメソして同情を引くな！」っていうセリフはその後の展開もあって刺さるね。
　…まあとりあえず、核というその莫大なエネルギーも使い方さえ間違えなければ、絶望を裏返した新たな希望につながると信じたいもんですな。神がサイコロを振ろうが振るまいが、人間に出来る事はまだまだある。