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アイリッシュマンの会社員のレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
3.0
一時代を築いたかつての名優達が再集結した、マーティン・スコセッシ監督によるマフィア映画。彼のこれまでのキャリアの集大成であるといえる。

冷戦下のアメリカにおいてマフィアが経済を牛耳っていた時代から、かつてのヒーローが人々に忘れさられてしまう時代までを生きた、一人の男の目線を通して語られる。マフィアものお決まりの栄枯盛衰を描いていると言えば簡単であるが、3時間半という長尺を気にさせないような様々な工夫や展開が存在する。
ふとしたことをきっかけに主人公が底辺労働者からマフィアの世界に足を踏み入れるパート。マフィアの世界で信頼を勝ち取る一方で、家族との関わりに悩むパート。地位が高まるにつれて組織内の派閥争いの解決に奔走するパート。
これらのパートの行き着く先として、争いの最後の調停に向かうシーンや、病院にて過去を振り返るシーンの二つを冒頭から交互に見せることによって、これまでの様々な人生の出来事それぞれが最後の一点の結末に収斂していく。老いというものをまざまざと見せつけるような終盤のシーンの意味に、深みが増すのである。

マフィアとして様々な罪を犯してきた。始めは家族との生活を維持するためにより多く稼ぐといった程度であった。しかし仕事を請け負い続けるうちに、忠誠心を試されるような血生臭さが増していく。組織の中での地位を高めようとしたわけでは必ずしもないとしても、いつしか呵責などは消え去ってしまい、家族の心も離れてしまう。最後には、ついに最大の恩人にまで手をかけてしまうこととなる。
彼は何のために罪を犯してきたのだろうか。そして、何のためにその罪を告白せず、隠し通してきたのだろうか。
明に暗に存在する、マフィア界の軍隊のような規律に従い、彼はこれまでの人生を歩んできた。そういた彼の回りにいた仲間達は、徐々に老い、亡くなり、彼一人になってしまった。それでもなお、生き方を変えることが出来ず、牧師との問答においても、つまり神とのやり取りにおいてすら、彼は赦しを請うことが出来なかった。

時代に取り残されてしまった老人は、一人孤独に残された部屋の中から、少しだけ開いたドアの外を寂しそうに見つめる。その先にいる我々だけがその孤独を知っている。この現代において重厚なマフィア映画をかつての名優達だけで描ききったことと重ね合わせられ、胸が痛む思いがした。
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