ベルサイユ製麺

裁きのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

裁き(2014年製作の映画)
3.5
インド映画のことは元より、インドという国のことを本当に分かってなかったのだなぁ、自分。
現代、インドのムンバイ。“反動的な歌を歌い、人心を惑わし、その結果自殺者が出た。自殺幇助だ!”…某虐殺抗議集会でソウルフラワーユニオンばりのかっちょいいプロテストソングを披露していた年老いた歌手が逮捕されます。彼を保釈しようと奮闘する若い人権派弁護士が、…主人公?

絵作りが良い。撮影がとても落ち着いている。余韻をたっぷりと残すロングショット、すごく引き込まれます。…実際に描かれるインドの都市部の生活の豊かさ(カーステレオでジャズを聴きながらの夜のドライブ、スーパー?百貨店?の清潔さと品揃え)もさる事ながら、映画そのものの見た目の洗練ぶりがとにかく意外でした。全体的なタッチは(タイトルの印象もあってか)イランのアスガー・ファルハディのタッチに近く感じます。
今作では、具体的な社会問題が題材にはなっていますが、それ以前に、インドの社会構造や機能そのものが止む無くルーズにしか繋がっていない事が浮き彫りにされます。雑多な宗教の乱立、硬直した社会制度、杜撰な警察組織…。簡易裁判所?みたいな所なのだと思いますが、法廷の雑な進行がホントに怖い。まるで極真空手の百人組手みたいに、「全員保釈金500ルピー。はい、次!」って感じ。こんなの信用していいの?
とは言え、結局部分の縮尺が異なるだけで、どこの社会も大差無いようにも思えて、やっぱり、この無根拠の“普通”感覚が一番恐ろしく思えました。飾らない、その国のリアルな姿を見せてくれる作品。貴重!
要所要所で、…笑わせなかったのかな?と感じられるシーンがあって、だとするとちょっとヨーロッパ 寄りのコメディセンスなのかなぁなんて思ってると、今度は観劇してるシーンが描かれ、その劇の雰囲気が完全に“よしもと新喜劇”テイストだったりします。観客爆笑!新鮮…!
ところでこの映画、法廷バトルが核ではあるものの、その部分は酷くアンチクライマックスに幕を閉じます。文字通りの暗転。証言台のシルエットだけが反射光で浮かび上がる。で、唐突なラストのシークエンス、あらら?何?この人たち何なの?…と思ってるうちにパッと終わってしまいます。人物が主人公、ではなく 出来事・法廷が主人公、でも無く 構造が主人公。結構好みが分かれる作りだと思いますが、こういう振り幅を持っているインドの新世代作家の台頭に、先ずは拍手を贈りたい。パチパチパチ。自分は、好き・嫌いで言えば、大好物です!全ての映画よ、ボンヤリ終われ!!