yukihiro084

レディ・バードのyukihiro084のレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.8
妹が癌で亡くなって3年、
僕は母の元にちょくちょく顔を出すように
なった。妹は母と一緒に住んでいた。
3年前、母も僕も兄も、肉体の一部を
失ったような想いだった。

ある日母は、最近は本を読んでいるの、と
言う。小説だった。母が小説を読んでいる
姿を初めて見た。初めて知った。
家に飛んで帰って数冊プレゼントしたら、
喜んで読んでくれた。
別の日には、テレビのCMでやっていた
(モネ展)に行きたいと言うので、
母を連れて行った。(印象 日の出)に
いたく感激した母は、興奮気味に
作品の素晴らしさを僕に語ってくれた。
母の好きなことなんて考えたことも
なかった。まさか、母と、朝井リョウや
モネの話をする日が来るなんて、
思いもしなかった。

息子の通学路の近くに、三つ子のような
木がある。普段は気にも留めないけど、
12月に入ると、(その三つ子)は
地面いっぱいに黄金色の絨毯を作る
イチョウの木であることを知らせてくれる。

愛情と、注意を払うことは同じ。と
映画は言う。

妹の死後、母が妹の日記を見せてくれた。
闘病中にも書かれたその日記には、
弱音のひとつも書かれていなかった。
日記には僕と息子がよく登場していた。
妹は僕や息子のことを細かく描写していた。
僕が疲れてそうとか、眠たそうとか、
僕や息子を思いやる言葉が並んでいて、
僕は子供のように声を上げて泣いた。
僕は妹が何が好きかなんて知らないのに。

レディ・バード。
恋人、親友、住んでいる街、兄、
兄の恋人、父親、そして母親。
口論や衝突を繰り返し、フラフラと右に
行ったり左に行ったりしながら過ぎてゆく、
レディ・バードの17歳の日々。
傑作(ブルックリン)でも好演した
シアーシャ・ローナン主演。
やっと観ることが出来た話題作。

近過ぎて見えなくなるもの。
当たり前に存在し過ぎて見えないもの。

最近は具合が悪いのよ、と言う割には
いつまでも電話で話し続ける母に、
僕は以前よりずっと愛情のこもった
返事をしていると思うよ。
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