もるがな

ルームのもるがなのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
3.4
実際にあった監禁事件をベースにした原作の映画化。生まれた時から納屋以外の外の世界を知らない少年と、同じく監禁されている母親の物語。

この映画では劇的なことは何も起こらない。あえて言うなら発端の監禁事件とそこからの脱出ぐらいで、元の事件の陰惨さはこの映画では顔を見せず、直接的な描写もほとんどない。安易で劇的な手法に頼らずオブラートに包んだ描写が目立つわけだが、裏を返せば、物語的な神の手による救いも全くない。ここには被害者しかいない。劇的であった方が見る方も割り切れたし、まだ救われたように思う。

描写にエグさはないものの、起こった出来事の余波が母子をジワジワと蝕んでいく様は非常にリアルで、むしろぼかさずに描くとあまりにも残酷すぎるため、わざと曖昧に描いて中和しているようにも感じられた。言動の端々から視聴者が思い浮かべる想像で十分過ぎるほどに、元になった事件が酷い。

物語としての盛り上がりのピークは中盤の監禁からの脱出で、それ以降はややトーンダウンするが、映画としての真骨頂はむしろ脱出後にある。陰惨な事件を描いた作品は数あれど、そこからの「ケア」に焦点を当てた作品は意外と少ない。少年の、初めて出会う人との会話の覚束なさや、ルームの中の価値観が全てといった様は見ていて胸を締め付けられる。そこに浮かび上がるのは、悲惨な事件からの社会復帰が如何に困難で、解決しても自分の人生が戻ってくるまでには時間がかかるという残酷な事実のみである。少年の顔をまともに見れず、会話を避けようとするじぃじの気持ちや、男の子なのにあえて女の子のように髪を伸ばさせて、父親の顔に似ないように仕向けていた母親の気持ちも痛いほどに理解できる。

個人的にマスコミの無遠慮な言動が嫌になるほどリアルで、はっとさせられた所がある。視聴者にとって都合がよく、共感しやすい物語を求めることの残酷さを思い知った。劇的でないと書いたが、そうした脚色を映画自体が拒否したとも考えられる。僕は映画を見た時に必ず見せたい相手を想像するわけだが、この映画に限ってはマスコミ一択である。あと土地勘のある女刑事がグッジョブ過ぎる。男の子の愛らしさと優秀過ぎる女刑事が唯一のカタルシスだった。
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