ソプラノ歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンスを描いた映画。彼女は史上希に見る音程の外れた歌手として有名。予告で観る限りでは、音痴なおばさまが歌手を夢見て旦那と二人三脚で奮闘する話なのかなと。でも本編を観るとかなり異なっていて深みのある物語。メリル・ストリープらしいドラマ性に富んだ良い映画だった。本作の主人公フローレンスを例えるなら裸の王様。お金持ちで社交界に顔が利き、夫を含めた周りの人間におだてられて悠々自適に暮らしている。音程の外れた歌いかたは酷いものだが、周りはよいしょして本人を喜ばせ、悪口が届かないようシャットアウトしている。こうした部分はコメディタッチで笑える要素なのだが、観ながら段々と、こういうやり方は正しくないよなと感じる部分が強くなる。金持ちの道楽としても見れるし。夫は、マダム・フローレンスに献身的に接しているが、彼のやり方には不快感を感じる人も少なくないかと。愛の形という意味では尚更だ。そうした突っ込み所もありながら、それでも最後まで観ると、彼女の生き方とそれを支えた夫にはこころを動かされる。マダム・フローレンスはただの無知で音痴な女性ではない。人知れない苦しみに負けずに、自分を愛して生きる喜びを追求した人。困難に負けずに音楽への情熱を追求し続けた尊敬すべき人だ。だからこそ人々はこの人に魅了されたのだと思う。そんな彼女を支えた夫も素敵だ。メリル・ストリープは圧巻だった。熱演が凄い。『マンマ・ミーア』などで圧倒的な歌唱力を披露しているのに、音程を外しての熱演が驚き。苦しみと戦いながらも気丈に振る舞った強い女性というのが強く伝わってきた。夫を演じたヒュー・グラント、ピアニスト役の男性もコミカルで良い味出してた。フローレンス・フォスター・ジェンキンスの生き方に感銘を受ける映画でした。
