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メッセージのYMKのネタバレレビュー・内容・結末

メッセージ(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

鑑賞日17.06.03~
地球外生物とのファーストコンタクト作品だが、珍しく人類とエイリアンの争いに発展する事が無く、まず害が無いかを調べて、積極的にエイリアンと相互接触しようと各国が努力する。ある意味、平和的・理想的な展開から始まるこの物語のベースには、現実世界に向けた邦題の文字通り“メッセージ”として潜む要素がいくつもある。

巷では「難解な映画」という印象が蔓延し、そろそろ上映を終えようとしているが、実にもったいない。確かに、全て観終わった後になかなか形容し難い感覚に襲われて、混乱もしたが、5度、6度と繰り返して観ようとするくらい引き込まれて行き、最終的には自信を持って2017年を代表する1本(暫定)になった。

作品では世界各国に出現したエイリアンとの相互接触について描かれているが、その間の各国との通信や情報共有などが活発で、対立する関係性は特に見受けられない(少なくとも序盤は)。突出して中国の立場が特殊なものになっていたが、エイリアンが直接地球へ害を与えていない以上、攻撃を仕掛けたら未知な反撃を受けて負けるような空気感が世界へ漂っている。核を撃つか撃たないかという事態と似るところがある。

無用な争いを避けるため、根気よく調査や接触を試みる重要性を一貫して表現している。その象徴となるのが主演のエイミー演じる言語学者のルイーズ。言語学者というだけあって本編にも出てくる言語相対性仮説(サピア=ウォーフの仮説)を上手く物語に絡ませ、言語によって人の考え方、思想が違ってくる=エイリアンの物事の理解のしかたや思想を身に付ける=ルイーズも時間を超えた感覚を得るようになるという結果になる。この展開を理解できるかが、この映画のキモ。

次第に「人類とエイリアン」という関係の見方から、「国と国の協力や対立」の関係性が加わり、最終的には身近な「人と人」との関係性に重点がシフト。結構壮大な作品に見えて段々ルイーズの個人的なお話に向かって行くのだが、冒頭のシーンも加味すると、これは一貫して一周回ってぐるぐる廻る、ルイーズが自分の娘に対して語っていくという本当に個人的な話。だからこそ、観る側はエイリアンからのメッセージを気にするのではなく、ルイーズの体験をもとにどんなメッセージを受け取るかが重要になってくる作品。

「言語を理解しただけで物理的に時空を越えられるのか?」という疑問が残り、そこを作品で追求しないのでSFらしさを気持ちよく感じられないかもしれないが、そもそもこれはルイーズが語っている物語なので、エイリアン調査の一連の出来事が現在なのか、あれは過去なのか、未来なのかなんて断定できない。

タイムパラドックスのように、または過去や未来の記憶がフラッシュバックするように、この映画での時間軸をバラバラに構成する現象は「物理的」要素とは程遠い。むしろ人が喋る時に体験を必死で思い出しながら時間軸が前後してしまったり、話の内容が自分のどの時期にあたるかバラバラだったりする感覚に近いのではないだろうか?

秀逸だと思ったのは、この一連の体験を通して未来が分かっていても選択できるかどうかと投げかける部分。つまり、「死とつながる」というアイデアだ。病気になると分かっていて子供をつくるのか、夫と別れると知りながらその人を愛すのか。自分の子供も居ない、結婚もしていない自分に置き換えて考えると・・・自分の寿命より短いペットを飼うのと同じ感覚だろうかと想像している。そこで、どうしてもそう選択すると言う事は、それほど人生を豊かにする要因になりうるということ。

そんな対象がいるから「より一層、気持ちを伝えようとする」というジェレミー・レナー兄貴の返答のセリフがグッサグサ突き刺さる。この物語の構成で、思い出が「繰り返される」のは「何回も体験すること」の素晴らしさを称えている。私たちは映画のように実体験を繰り返す事はできないが、いつでも思い出せるように充実した時間や気持ちで満たされる事が必要だ。
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