ベルサイユ製麺

ハッピーエンドのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ハッピーエンド(2017年製作の映画)
4.0
…もう、なす術無し感が凄い。
スマホで覗いた場面で始まり、×××で×××場面で終わる。如何にも挑発的な『ファニーゲーム』みたいのじゃなくて、マジで真意を図りかねる『ハッピーエンド』なんてタイトル…。

冒頭スマートフォンで母を撮影する少女エヴ。「母はうるさい」とコメントをつける。
続いてペットのハムスターに抗うつ剤を与え死に至らしめるところを撮影。
次のシーン、リビングで横たわって動かない母を撮影。「こうやって静かにさせるの」…。

母の具合が思わしく無い為、エヴは別居中の父トマが暮らすロラン家に引き取られる事になります。ロラン家は建築業界で財を成した裕福な一家。
祖父のジョルジュは高齢で鬱傾向。物忘れの兆候。
父トマは優しくて、エヴにも愛情を注ごうと努力を欠かさない。一家で一番常識的な人物に見えるが、その裏では…。
トマの姉アンヌはバリバリの仕事人間で、家業を継ぐ予定。
アンヌの息子ピエールは、心が弱くてどうしようもない…。
話を大きく引っ張っていくのは、エヴと、父のトマと、その父のジョルジュですかね。
元々個々で秘密を抱えていたロラン家だった訳ですが、トマはその秘密をエヴに嗅ぎつけられてしまいます。思えばエヴと同じ類いの秘密だもんで、なんとなく分かっちゃうのかもしれません。ジョルジュは逆にエヴの秘密を嗅ぎつけます。これも、なんか分かっちゃうのかもしれません…。ジョルジュ、伊達に経験を重ねてる訳では無い。全て、だいたいお見通し。いや、見過ぎて草臥れてしまった…?
そう、ジョルジュの事だよ!彼の告白する秘密から連想されてしまうのは、どうしたって『愛、アムール』の彼のことで、それ以上にハネケ自身の事に見えてしまうよ。
ジョルジュがエヴに聞かせた話。…たまたま庭を眺めていて目にした“大鳥が小鳥を振り回しバラバラにするシーン”。ジョルジュはそれを、もしテレビで見ていたのなら自然の摂理だとのみこめただろうけど、実際に見て“手が震えた”と語ります。…しかしエヴはその瞬間をスマホで撮影してしまう世代の子なんですよね。画面越しでしか物事を認識出来ないし、実感なんてそもそも無いのかもしれない。
ジョルジュは、自分の時代は・役割は終わったと感じているのだと思います。では、ハネケ自身は?
ラストシーンの先はどうなったのか分からないので、コレを『ハッピーエンド』と言われたら、観客はそれに相応しいシーンを想像するしかないと思います。そして思い浮かべるそれは、やっぱりハネケらしいラストなんじゃないかな?個人的には、(自分もその傾向が強いので)それこそが、まごう事なきハッピーエンドだと思ってしまうのです。幕引きを自分で決められるなんてね。

分かったような事を書いてますけど、過去のハネケ作品の事も、この作品の事もきっとまるで分かってません。人種差別や階級社会の描写も“遺憾な”ぐらいにしか思えませんでした。悔しい。リアルタイムでハネケをしっかり理解し楽しめる人間になりたかったけど、やっぱり無理なのかな…。存外に寂しいものですね。