スマイリー

彷徨える河のスマイリーのレビュー・感想・評価

彷徨える河(2015年製作の映画)
5.0
いかにもインテリが褒めそうな映画という感じだけど、すごい映画だからみてみて!と言いたい。

ドイツ人民俗学者テオが、病気を治すためヤクルナという植物を探しにアマゾンのジャングルへやって来る。彼に付き添う原住民と唯一ヤクルナの在りかを知る原住民カラマカテを加えた3人の話が一つある。もう一つ、その数十年後、歳をとり記憶を失ったカラマカテのもとにアメリカ人がやってきて、再びヤクルナを探しに行く話がある。これら2つの話が交互に進行する。

テオが初めてカラマカテに会った時、初めカラマカテはテオを拒絶する。それは何故か。白人はアマゾンに入植して、原住民を虐殺したり、奴隷としてゴム農園で酷使したりしているからだ。カラマカテは属する部族の唯一の生き残りだった。

このシーンにも表れているのだが、この映画、一般的な冒険譚ではない。主人公らがアマゾンの奥へ奥へと進んでいきながら、白人が原住民に対して行った仕打ちを次々に目撃していくというもの。
白人は、キリスト教を教えて時に文明化もしてあげたと自らを正当化して歴史を語るが、その実は、原住民を酷使し、時には殺し、故郷を破壊し、文化も破壊していたのだということが明らかになってくる。いわば、白人でなく原住民の視点に立った、中南米入植の実像を切り取ってみせているのだ。

もう一つ特筆すべきは、映像の美しさ。アマゾンのジャングルを生い茂る樹木や川の水面など、とても美しく捉えられている。それだけでなく、夜のシーンが多いのだが、少ない光源でもはっきりと人や物を映してみせている。白黒で夜のシーンでも明晰な画が続き、美しさを常に映画に感じる。

民俗学者のコンパスを奪った先住民の問い詰められた時の反応とか、神の子を名乗る似非宗教家の振る舞いとか、笑っちゃうシーンもある。そして何と言っても、ヤクルナを服用したときに見るトリップ映像を我々もまた体験できる。お堅い映画だと敬遠しないでほしい。

確かに観るのにカロリーを使う面も正直ある。しかし、もっとたくさん劇場に人がいてもいい映画。肩肘張らなくてもいいので、観に来る人が増えればいいなあと思います。
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