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イルマ・ヴェップのArxのレビュー・感想・評価

イルマ・ヴェップ(1996年製作の映画)
4.4
映画批評家であった監督がフランス映画の現状をメタ的に批評した作品というとかなり小難しい、身内向けのサークル映画になるのではと思っていた。もちろん映画界に対する相対的な視点はあるが意外と下世話で、活気があり、パンクの様な自己破壊が最後にやってくる。

落ち目の監督がサイレント映画をリメイクするために香港女優(マギーチャン)をフランスへ招く。しかし、アジア人が主演女優をするという監督の突飛なアイデアは理解されず、フランス人クルーは陰口や蹴落とし合いを繰り返している。(主演女優をホテルに誰一人送迎しないのには驚かされる。)この時の人物から人物へのスムーズなカメラの移動が会話劇のテンポを押し上げている。その中でマギー・チャンは居心地の悪さを感じさせながらも(自己主張も控えめだ)、確固たる意志を感じさせ素晴らしい。

この頃、香港映画は批評的にも商業的にも成功しておりそれに対しフランスのアート映画が低迷していたことは確かだ。劇中でもそのようなコメントが見られるがアサイヤス監督はそのどちらにも全面的に同意するわけではない。香港映画も、フランス映画も、サイレントもトーキーも愛しながら批評した上で破壊してみせることでで、最後に別の道(オルタナティブ)に到達した。
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