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君の名は。のsanbonのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
4.2
はじめこの作品の制作発表を知った時は「転校生」の様な同級生男女の入れ替わりラブコメで、最後はホロっと涙腺をくすぐるような、日常系の話にSF要素を織り交ぜたお話を想像していました。

実際、今作の監督である新海誠監督は恋愛物の名手で、すれ違いによる悲恋系のお話が多かったりします。

しかも作風的に決して大衆向けとは言えず、静かな展開が続く物語を圧倒的な筆致で描く映像美というのがこの監督の得意分野で、正直この監督の作品はあまり肌に合わずこの段階では期待していませんでした。

ただ、公開後のレビューを見て驚愕。
見た事ない程の軒並みの大絶賛!!

これは只事じゃ無いと、即決で鑑賞を決意しました。

この映画を観てまず思った事は、予想外の展開というのはやはり評価を上げるには一番の特効薬であるという事。

例えば「予想外の結末」とか「想像を超えた展開」などの煽り文句で大風呂敷を広げた後、「徹底的な情報規制」でユーザーの飢餓感を極限まで高めたりする手法がとられたりするのをよく目にしますが、それを売りに宣伝すると余程脚本が伴っていない限り逆効果になってしまうまさに劇薬でもある手法です。

そして、この作品が持つ本質とも言える核心部分は、宣伝などの前情報だけでは読み解く事が困難なまさに予測不能な展開をしており、しかもしっかり脚本が想定を上回っているという素晴らしい出来でもありました。

転にあたる物語中盤から急にガラッと作品の空気が一変する作りには本気で驚きましたし、序盤のコミカルなノリがあったからこそ、それ以降の展開が重大性を帯びる構成力にこの作品の凄さを感じました。

ただ、この映画に関してはその「予想外の結末」効果を狙って情報規制を敷いていたなどでは恐らくなく「千年に一度の彗星接近が1ヶ月後に迫ったある日、遠く離れた男女がなぜか突然入れ替わる」というキーワード以外がすべてネタバレレベルの内容になってしまう為であり、決してそういうあざとさがチラついたものではなかった様に思えます。

また、音楽をRADWIMPSが担当してる事もあってか、ワイドショーなどでも多く報道されていましたが、やたら映像美ばかりを熱弁してきて内容的にはあまり触れられなかったので、「まあ、想定内の物語だからなんだろうなぁ…。」とか思っていましたが、鑑賞後はそういう理由があったのかと今なら納得。

この作品を出来るだけ伝えると、
「ボーイミーツガール」というより「ジュブナイル」
「SFラブコメ」というより「ヒロイックSF」
「転校生」というより「時をかける少女」
そして「2013年から2021年を股にかけた人類(と言っても小規模)救済の物語」だという事。

あと、RADWIMPSの唄う「前前前世」が、鑑賞後に聴くと歌詞の世界観がより深く理解できてめちゃくちゃ素晴らしいです。

「君の名は。」は新海誠作品で初のエンタメ作と言っていいほど大衆向けで、キャラデザも間口が広く非常に受け入れやすい完成度で、配給元である東宝が初回300スクリーン用意したのも理解できる圧巻の内容でした。
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