よしまる

ハロルドが笑う その日までのよしまるのレビュー・感想・評価

3.7
 つまんない邦題!

 「笑うその日まで」って、最後に笑うのバレバレやん、アホちゃう?北欧の映画と言えば、厳しい寒さやちょっと小難しくて頑固な主人公でハードなイメージを醸しつつ、中身はとってもハートフルでほっこりするのが妙味なのだけれど、センスのカケラもなくネタバレ満載の邦題のせいで損をしていることも多い。

 ヒア・イズ・ハロルド。ここにハロルドがいる!
 なんて素敵なタイトル。40年もの間、地元で有数の家具店を営んできたけれど、ノルウェーに進出してきたIKEAのおかげで店はつぷれてしまう。さらに不幸が重なり、自殺を試みても誘拐を計画しても失敗続き。
 そんな生き様でも優しい心も持ち合わせ憎めないハロルドというおじさんは確かにここに生きているんだという明確なメッセージが、まるで出落ちなタイトルに台無しにされてしまっている。

 ボクもインテリアのお店をやっており、15年ほど前に近所にニトリが出来て全然他人事とは思えない。けれども大型店と個人の専門店では出来る事もやるべき事も異なるはずで、自分の売上が落ちていくのをただ規模や資本力のせいにするのは間違いだし、ましてやその経営者を非難するなど逆恨みもいいところだ。

 IKEAの創業者、イングヴァル・カンプラードの描写については、人となりまでは知らないのだけれど、概ね本人像とはブレてないそうで、本編にも出てくるエルムフルトの小さな日用品店から一代でここまで築き上げるには、粗製濫造の安売り屋だけでは絶対に成し得なかったはず。それこそ企業精神や行動力は賞賛に値するものだと思う。

 公開当時は存命中で、本人がどこまで関与して、実際に鑑賞したのかさえわからないまでも、こんなにdisってる映画を容認し、店内の撮影まで許可してるのがすごい。

 「本当の価値はイスではなく座る者にあるとずっと言ってきた」。実在のカンプラード自身の言葉なのかは知らない。でも本作で彼にそう云わせたのはとても良かった。

 何もかもをIKEAのせいにして素っ頓狂な行動に出てしまうハロルドをコメディタッチで温かく描き、IKEA側からの視点についても中傷も美化もせず正面から捉えている。さらにここにファンニ・ケッテルという気鋭の女優さんが演じるエヴァという若い女性が実にうまい具合に混じり入る。自らも悩みを抱え、時に2人の老人に怒りを吐き出す姿は、福祉国家、幸せな国と名高い北欧に潜む影の部分と重なり合う。

 そうした現実に蓋をせずしっかりと描きつつ、誰もが人知れず苦労して悩みを抱えながら生きていることを、説教するでもなく突き放すでもなく温かく包み込むように語る北欧の映画は、観ているだけでしあわせな気持ちになれるのだ。

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 新しく「#よしまるの北欧シネマ」というタグを作りました。製作国というだけでなく、舞台や題材など北欧に関連する映画をレビューしたら付けていきますのでよかったら見てくださいね〜!