すずきたけし

ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘いのすずきたけしのレビュー・感想・評価

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2014年、ウクライナのキエフで起きたヤヌコーヴィチ大統領への抗議デモのドキュメンタリー映画。

EU加盟の調印寸前にヤヌーコーヴィチが調印を破棄してロシアにすり寄ったことで、怒った市民が大統領退陣を要求するデモと集会を始め、それを弾圧した政府。

始めはFacebookで集まった学生の平和的な集会から始まったが、それをとりまく「ベルクト」と呼ばれる機動隊が強制排除に動き、盾と鉄製の警棒で殴る殴る。
それに怒った市民がデモに参加し、運動は大きくなっていく。

ベルクトは隊列を組み、密集し、左右の盾と盾をぶつけ合い市民たちを威嚇する。対する市民も盾と棍棒を手に、盾に棍棒を打ち付け威嚇する。
もう中世の軍隊同士の睨み合い。

国家警察の組織的な戦術はやはり元ソ連ということもあり手慣れていて、デモを押し返すのも、デモの逃げ場を一方向だけ空けておいて意図した場所へ追い込んだり、警察が雇った人間をデモに潜入させ、市民側から暴力をけしかけてベルクトとの衝突を意図的に画策したり(日本も60年代にやってたな)。
また、鎮圧に乗り出した機動隊のベルクトの後ろからの第二波に、警察が金で雇ったチンピラ部隊(制服を着ている)が突入し、凄惨な暴力を市民に向ける。

もうその映像が凄まじい。

機動隊が一気呵成に突入すると、倒れた市民に5、6人が群がり、殴り、蹴りまくる。逮捕するのではなく、目的は「攻撃」。もうケモノですよ。
60年代じゃないんですよ。
80年代の東南アジアではないんですよ。
2014年のヨーロッパの民主国家でですよ。

当初、盾に棍棒、音響爆弾だったベルクトの対応が、徐々にゴム弾を撃つようになり、そこに実弾が混ぜられ、終いには実弾だけになり、そしてスナイパーライフルで市民を狙撃するまでに至る。
警察が市民を「狙撃」ですよ。
担架もって救助に向かった市民が狙撃されて倒れるシーンや、市民の盾に銃弾が当たるシーンは、もはや内戦。

それでも広場を死守しようとする市民。

なんというか、デモへの覚悟がもう、「戦争反対」という日本の市民運動とは全くもってレベルが違うというか、「まだ自由のためなら戦いも辞さず、という段階だったのかウクライナ」と。

民主国家として独立した国でも、肝心の為政者が国家が国家たるものがなんなのかをわかっていないと(この場合は旧ソ連の亡霊が見え隠れする)、エライことになるんだなぁと。
まあ、すごい映画でしたよ。

※ただ、親ロシア派のことも知りたいと思います。このあとロシアのクリミア併合もあったことだし。

この手のドキュメンタリーでは「正義」のライトを当てて影を作ってしまうのは危ないなと、いつも自制を心がけてます。
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