すずきたけし

恐怖の報酬 オリジナル完全版のすずきたけしのレビュー・感想・評価

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『恐怖の報酬』は昔から噂には聞いていたのですが記憶の片隅に追いやられて未見のまま現在に至り、今回の4Kオリジナル完全版の公開で「そういえばあったな」程度の認識でして。
77年公開時に『スターウォーズ』公開の影響をモロに浴びて興行的惨敗して、しかも監督の意図しないカットをされたという曰く付き。その後わずかにソフト化もあったようですが、今回のリバイバルまで国内では観られなかったというのも実は今回知りました。
映画史的には70年代末にコッポラの『地獄の黙示録』やマイケル・チミノの『天国の門』(天国の門“事件”とまで言われる)の超がつくほどの大失敗で映画における作家主義の終焉に引導を渡した一本として取り上げるほど公開のタイミングが悪かったようです。(この反動が80年代のブロックバスター映画隆盛に繋がるわけですね)
映画の感想としてはあえてこの言葉を使いましょう、いやこの映画のためにある言葉でしょう。
「ハラハラドキドキ」です。
後半からクライマックスにかけて劇場の所々から「ひゃっ」「っあ!」と声が上がるほどです。
この時代の映画を見るたびに、スクリーンに映る全てが物理的に存在し撮影のために起こしたことを強く思うのです。今ではCGIによりなんの驚きも感じなくなった「爆発」のシーンが、この時代の映画では画面の隅々まで爆発の意味がある。
トラックのタイヤが木の橋をミシミシ音を立てるだけで手に汗握ってしまうのです。
この実在感はたまに感じていないと、本来の映画の楽しみを忘れてしまうことになりかねません。
2000万ドル(現在の100億円相当)の制作費と2年を超える期間を費やしたという情報を知ると、「そりゃあ作家主義も終わるよね」と思わざるを得ないわけで、現在の作品に対する高い評価は今となっては“誰も不幸にしないから”じゃないかと思ったりして。
70年の『トラ・トラ・トラ!』の制作費は2500万ドルですから、あのスケール感と比べると、『恐怖の報酬』にそこまでお金かかるのかと思ってしまいます。まあ2年もかけてますし、作家主導の製作体制ってそういうのが問題だったということですよね。
でまあ、こういったリバイバルは往年の映画ファンの懐かしみの感想よりも、CGIが当たり前の若い人にたくさん観てもらってその感想を傍で聞いてみたいですね。
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