しゃび

シング・ストリート 未来へのうたのしゃびのレビュー・感想・評価

4.0
前半30分間とラストさえ良ければ、非の打ち所がない名作なのに…
ただ逆に前半のなんとも言えない凡庸感が、その直後の急上昇を余計に引き立たせてくれているのも確か。音楽的センスももちろんのこと、各所に上質のメロドラマが散りばめられていて、懐の深さを感じた。

何しろこの映画は好きなシーンが多すぎる。

だが、最後のはなんなのだろう。
これまでのセンスの権化のような畳み掛けはなんだったのか。自分が分かってないだけなのかも知れないが。

なんだか文句の割合が多めになっているが、トータルとしてこの映画は素晴らしい。やはり映画の醍醐味はどれだけ多く心に残る映像を残せるかだ。そういう意味で、この映画は申し分のない力作である。


ネタバレ↓

まず、一発目のPVのシーンが本当にいい。
80’sの安かっこいいPVの雰囲気が出てて本当に良かった。そこまでの30分が本当に我慢だったので、いきなりの炸裂に正直驚いた。最後のキバなんて最高のネタふりだったと思う。

そしてプロム会場でのMVリハのシーンなんてまた最高ではないか。ダンスパーティに漂うペーソスは映画しか表現できない。ダンスパーティが幸せであればあるほど、事実がその逆であることが分かってしまうのでなんとも悲しい。

そしてなんと言ってもボートでのデートシーン。
音楽映画が、ボートという小道具を得て一気に極上メロドラマに昇華する。完全に音楽に乗せられていた私を映画にたち戻らせてくれる瞬間。ここが素晴らしすぎただけに、本当に残念なラストのボートシーン…荒波に揉まれるという未来のメタファーなぞ全く必要がない。うーん、悔やまれる…

…いや、もう文句はやめておこう。
本当に良い映画で好きなんです。
既存の楽曲もよいが、それ以外もほんとに素晴らしい。サントラが欲しいくらい。

ジョン・カーニー監督作品は初見なのだが、他の作品がどのような感じなのか。ぜひ観てみたいと思わせてくれる作品です。
しゃび

しゃび