Daisuke

ダゲレオタイプの女のDaisukeのレビュー・感想・評価

ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)
4.4
『とる(撮る,取る)者は、』

黒沢清監督の最新作と言う事で、なるべく早めに行こうと見て参りました。
ですが、昔の黒沢清監督の作品は大好きでしたが、実は最近の黒沢映画『リアル』『セブンスコード』『クリーピー』などは私はまったく乗れなかったタイプです。
それは、日常から非日常、つまりは「幻想へ入り込む描き方」があまりスムーズに感じなかったからです。
CGでの直接描写や、突如キャラクターの性質変更、さらに部屋は無機質で異常なセットなど、
面白いのですが、そこで映画の「流れ」が突如止まってしまうように感じていたからです。
黒沢監督がいかに映画へ真摯的に向き合っていたとしても、そこは私は正直に「そうじゃない」と感じていました。

ではなぜ見に行ったのか?
それは先日『scoop』で撮る者の物語、つまりは私が求めている「カメラ映画」について書きましたが、「撮る者の本質」これを今回どのようにアプローチしてくるのか?これが1番興味を引いた点でした。

結果。
さすがです、黒沢清監督様と。
やはり映画監督という監督自身のキャリアにおける「撮る者」の本質、そこに過去作からずっと撮り続けてきた「死と私」が合致して素晴らしい作品になっていたと思います。

まず、ファーストカットの見せ方からすでに上手いなあと感心していました。
あれは電車の背景に工事をしているクレーンを均等に並べ、さりげなく「この土地の状況」を見せつつ、キャラクターがやってくる。
そしてその土地の状況が登場人物に関わってくると言った
「計算され尽くした演出」が素晴らしい。
もっと言いたい素晴らしい演出が数々ありますが是非劇場で驚いてほしいなと。

次に、
今作における「幻想の描き方」なんですが、最近の作品の中でも1番シームレスで素晴らしいと思いました。
突拍子もない演出は全くなく、現実からゆっくり、しかし確実に非現実へと観客は連れて行かれます。
見ている最中「監督!それです!自分が求めていたのは!」と声を出したくなるほどでした。

そして今作のテーマ。
詳しくは是非見て欲しいので書きません。

「撮る者」とは「取る者」である。

劇中に監督の本音が見えるようなセリフがあります。あるモデルに対して「自然だと?」「プロなら捧げろ」と。
監督、感服しました。

以上、と言いたいところですが、
本当に話たいのがここからなんです。
ここまで書いておきながら、なぜ満点にしないのか?

それは黒沢清監督の計算され尽くした演出だからこそ起きてしまってると感じた部分です。
それは、

「演技」です。

今作は演出もシナリオにバッチリとハマり素晴らしい映画となって満点を付けたかったのですが、、、
では自分がこの映画に心の底から「感じた」のか?と言われたら嘘はつけません。

あまりに素晴らしい演出に登場人物たちの演技がついていってないように見えました。
操り人形というか「ここはこう」という部分が見えると途端に自分はそれが「映画なんだ」と遠く感じてしまうのです。

黒沢清監督の演出は素晴らしいと心の底から感心しつつも、自分の心の底までは到達してこなかった。そんな印象でした。

シナリオが、演出が「見えなくなるほどに強烈な演技」これが黒沢清監督の演出力と合わさった時、

真の傑作(自分にとって)が誕生する、
とずっと待っています監督。

以上。
長々と失礼しました。
Daisuke

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