ベルサイユ製麺

人魚姫のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

人魚姫(2016年製作の映画)
3.0
思い切って告白しますが、私は『少林サッカー』を観ていません。
《汝らの中で少林サッカー以降もチャウ・シンチー作品を観続けている者だけが、私に石を投げよ!》…セーフです。まあ、単に流行り物に乗っかり損ねただけなのですけど、最近になって「西遊記やべぇ、チャウ・シンチーやっぱやべぇ」的な風評を耳にし、『西遊記』を観てみたところ、あーマジやべぇと深く感銘したのでした。主なやべぇポイントは①勢いが有り過ぎる②人物の行動原理が理解不能③笑いのセンスが独特④むごたらしい等で、その全てが狙っては再現の出来ない希有な表現なのです。今作『人魚姫』もベースが御伽噺なので、これはさぞかしやべぇのだろうなと覚悟して鑑賞に臨んだのですが、いゃあ、もう想像の遥か上でしたよ!
とにかく語り口が常にふざけている。これはマズイですよ。じきに真面目に話を聞いてもらえなくなるヤツですよ!…ほらぁ。
雑にストーリー説明をしますと、環境破壊で海に棲めなくなった人魚が、開発を行う企業の若社長にハニートラップを企てるのだが…みたいな感じです。
主人公の人魚ちゃんがとにかく可愛い!往々にして中華美女って美し過ぎて、ちょっと怖いくらいだったりしがちなのですが、この人魚姫のネジの緩んだチャームの有り様はシンチー監督だから出せている様な気がしますね。対するロマンスのお相手の社長なのですが、なんだか特殊用途の映像作品の特殊男優さんみたいな佇まいでちょっと嫌なのです…。ガウン着てそう。
で、基本的にはこの2人のドタバタラブコメなのですが、コメディのセンスが本当に独特!しかも全てのギャグをシンチー監督自身が事前に演じてみせるという撮影スタイルなので、完全に“シンチーの脳内おもしろワールドへようこそ”なのです。まあ、ギャグの質は好みの問題としても、一部の重要な心の動きを示すべきシーンが、しょうもないギャグに呑み込まれてしまう場面があったりして、ドラマツルギーの在り様について深く考えさせられましたよね…。全体的にコメディパートの入り方がブツ切りのミニコントぽくて、ドリフターズなどの昭和の日本のコメディ番組に近い気がしました。洗練とは真逆の進化を感じさせます。
人魚達が身を寄せる仮の住処のセットが非常に大掛かりで、なんとなくブロードウェイの新機軸ミュージカルを思わせます(もちろん想像)。人魚達の姿が、おばさま的だったり、下半身がタコだったりの面白設定は、日本人的にはなんか既視感あるなぁ…。
むごたらしい表現も残念ながら健在で(人魚をモリで突くとか)、元々がアクションの西遊記はともかく、ラブコメディの画面が血塗れなのはツライ!香港映画の暴力描写は老若男女問わず手加減無しですね。フェア!
終盤、物語はドラマティック&ロマンチックな大団円に向かいますが、独特なノリはそのままなので、感動するにもノイズになっちゃって、全く集中出来ません!
いろいろ楽しめたのは間違いないのだけれど、これは言わば珍味だけの満貫全席みたいな物なので、あと三年位は必要ないですね。
…とか言いつつも既に西遊記2が楽しみだったりしますよね…。あぁ、やばかったなぁ。