10円様

ゴッホ~最期の手紙~の10円様のレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
3.8
米アカデミー賞の長編アニメ部門は毎年ディズニーアニメが受賞しています。ディズニーがアニメ業界を越えて米資本、いや世界のそれに与える大きな影響力と作品の完成度を鑑みれば当然の結果だと思いますが、ノミネート作品の中には「おっ?」と思える大穴的作品も毎年名前を連ねています。03年の「ベルヴィルランデブー」09年の「ファンタスティックMr.FOX」16年の「KUBO二本の弦の秘密」など、今後のアニメ界を牽引できるような作品と巡り会えます。そして17年が今作品です。CG全盛の時代にあえて全編油絵と一部水彩画、一部実写(だよね?あのシーン)で製作した逆説的な野心作。約130人の画家が約65000枚の油絵を描いたそうな。当初は7分の短編だったそうです。そりゃそうですよね。こんな途方もない労力は7分が限界だと思うのですが、それを90分の長編にしたのだから、製作者の狂気染みた情熱がうかがえるのも必然ではないでしょうか。いつ頓挫しても不思議ではなかった本作を完成、公開してくれて感謝しています。ゴッホです。製作者はみんなゴッホですよ。

この映画、何がグッとくるかというと郵便配達人ジョセフルーランとアルマンルーランが共演してるんですよね。医師ガジェとマルグリットガジェが一緒の画面にいるんですよね。麦畑を歩くんですよね。タンギー爺さんから話を聞くんですよね。ゴッホ名画達が一つの映画で「共演」するんです。MCUみたいに!笑

そしてこの映画、とても印象的だったのはキャラクターの影の動きでした。1秒間に約12枚の油絵が使用されているのでとにかく影が動き、絵を動かすというより、絵に命を与えているという形容が相応しいと思いました。人の手の不正確さが大きく貢献している部分だと思います。

ゴッホは27歳で絵を描き始め、37歳でこの世をさりました。画家としては遅すぎる誕生であり、人としては早すぎる死です。そのわずか10年で描いた作品が近代絵画に大きな影響を与えていて、わずか10年の画家人生なのに画家ファン・ゴッホの事を世界の誰もが知っています。伝記映画は多くありますが、このようなゴッホへの敬意と遊び心で彼の事を残しくれて本当に良かった。そしてこの映画に相応の評価が付いたのも、本当に嬉しい事でした。
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