10円様

ウーマン・トーキング 私たちの選択の10円様のレビュー・感想・評価

3.6
 まず初めに思ったのは「この村には白人しかいないのか?」からの「これはアカデミー作品賞ノミネートの基準を満たしてるのか?」という事であった…多様性が叫ばれている昨今の映画で全員が白人というのはめっちゃ違和感です。不自然と言ってもよいかも。それだけダイバーシティが当たり前になっているって事なのかな?

 舞台は西部開拓時代のような寒村。納屋に馬車。人が走れば土煙が舞いもちろん電気の類はない。あるのは人と農業と信仰。だいたい1800年代中期から後期にかけての時代。この時代の田舎村で男尊女卑の色は根深くあるのだろう。
 と思いきや。映画の舞台は2010年というではないですか。サラポーリーは現代にあえて信仰と差別が色濃く残るその時代を架空の設定で持ってきたんですね。とはいえ流石に字が読めない人はかなり珍しいと思うので大袈裟な設定かな?

 史実ではボリビアのメノナイトの集落で2005年から2009年にかけて行われてきた性的暴行。この間教区は特に彼女たちの声に耳を傾けず、それは悪魔のせいだとか言ってます。そもそもメノナイトとは保守的な一派の集まりであり神の教えつまり「赦し」その「赦し」こそが彼女たちを支えるものなんです。男性にレイプをされたくらいではアイデンティティは崩したくない。それほど信仰の呪縛というものが感じられました。

 MeeTooの灯火が上がったのは2006年。時期的にはここと一緒です。
 ハーヴェイワイスタイン失脚から燃え上がるように火の手は広がり世界を席巻したのが2017年。ミリアムトウズがウーマントーキングを発表したのが2018年です。とても注目される内容とタイミングですよね。こうやって性差別のシュプレヒコールは広がって行くんですよね。ちなみにミリアムトウズもカナダのメノナイトです。

 メノナイトは保守的な一派ですが、その集団は個の集まりであり、その個にも教義に対しての様々な解釈があり、自分たちをレイプした男達への考え方も様々でした。
 本作はその異なる考え達を「議論」する。という会話劇です。演劇向けの作りでもある気がします。ただほとんどが納屋で行われる会話シーンなのに、妻、女、子ども、あらゆる立場の葛藤から議論は難航します。しかしその根底にあるのは「信仰者」という立場なんですね。女である事からは逃げられるけど信仰者である事からは逃げられない…拠り所となるはずの信仰が足枷にもなるといあジレンマ…

 レイプした男達は罪人ですが、史実ではこの教区の長や村長も「その事実を知らなかった」とかそれっぽい事を言ってたようです。発言が真実でも嘘でもそちらの方々もよほどの罪人でよね。

 映画的には好き嫌いは分かれると思います。「12人の怒れる男」とか密室群像会話劇が好きな方にはおすすめですが、裁判もののような相手の綻びを指摘して解を出すようなスリリングな戦いは無いです。ただ、女である事、信仰者である事。その二つを芯にもつ「彼女たちの選択」は私はとても共感が持てました。
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