アニマル泉

青春残酷物語のアニマル泉のレビュー・感想・評価

青春残酷物語(1960年製作の映画)
5.0
大島渚の出世作。瑞々しい傑作だ。同じ年にゴダールの「勝手にしやがれ」が公開されている。「勝手にしやがれ」は撮る喜びに溢れているが、「青春残酷物語」は怒りのエネルギーが爆発する。
桑野みゆきと川津祐介は美人局で中年男性から金を巻き上げて行き当たりばったりに暮らしている。強請りの映画だ。のちの「少年」を彷彿とさせる。桑野が車に乗り込んで男を誘い、川津がバイクで追いかける。バイクが新鮮だ。
大島は「川」や「海」がいい。隅田川のボート、木場の場面、川津が桑野を川に突き落とす、なかなか材木に上げさせないで桑野が溺れそうになる長回しが素晴らしい。海に二人乗りのまま海にバイクで突っ込むショットも素晴らしい。「気狂いピエロ」でベルモンドとカリーナが車で海に突っ込む忘れがたいショットよりも本作が早いのが衝撃だ。
撮影は川又昴、街中ロケの手持ち撮影とセットの長回し撮影が新鮮だ。
後に開花する大島の数々の主題が溢れている。何といっても赤いリンゴだ。大島の重要な主題である「円」と「赤」が見事に提示される。「日の丸」「太陽」「血」につながる主題だ。川津は残念ながら赤いリンゴは桑野の横に置いて、かぶりつくのは青いリンゴだ。後年の大島だったら絶対に赤いリンゴをムシャムシャ齧っただろう。あるいは桑野に別の場面で赤いリンゴを食べさせただろう。このリンゴの場面はあまりにも有名で、川津のリンゴを齧るアップに襖の向こうの渡辺文雄と久我美子の青春の夢破れた怨念の会話がオフで聞こえる、名ショットだ。しかし一番ドキリとしたのは川津が無造作に赤いリンゴを取り出すことだ。大島の重要な二つの主題がデビュー作の物語のクライマックスに見事に提示されるのが感動的だ。大島の天賦の才を感じる。
ヤクザの佐藤慶が素晴らしい。階段落としの場面の非情さ!大島は「落ちる」瞬間を描かないのでこの階段落としはレアだ。落ちるといえばラストの桑野が走る車から飛び降りる、このくだりも妙な編集だ。飛び降りる運動そのものは描けないと、大島が悟ったのだろうか?
全体に編集はゴツゴツしている。いわゆるつなぎのカットや時間経過のカットがない。場所も時間も無視してエモーショナルにゴツゴツつないでいる。
本作では桑野や川津の欲望をぶつける若者たちと、渡辺や久我のぶつけられなかった世代の対比を描いているのが、大島の新人らしからぬ骨太な作風である。当時は全学連運動の真っ只中で、本作公開直後に樺美智子が安保闘争で国会で死亡した。何か時代の予感を感じさせる作品がある。本作はそういった一作である。
やたらと煙草を吸う映画だ。灰皿にウィスキーを垂らして火をつけるのが反復されて印象的だ。桑野の「赤い傘」もハッとした。大島映画では女がすぐ犯される。
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